ちなみにチナミの家は、盗賊団家系

五木史人

【上】貧乏は嫌!

希望に燃えていたのは最初だけだった。

勇者になったからと言って、貧乏から抜け出せなかったのだ。

そんな、ぼくは勇者キート。レベル1の最弱勇者だ。


天空からは美酒が、雨のように降ってきていた。

それは酒を飲まないぼくにも解るほどの美酒だった。


そんな天気の日にぼくは、から揚げ屋で、から揚げ1人分を買った。

から揚げ弁当は買えなかったので、ご飯は抜きだ。


森の中でテントを張って、ぼくと美少女魔法使いのチナミは、1人分のから揚げを2人で分けて食べる事にした。


チナミはリュックから檸檬果汁が入った瓶を取り出し、から揚げにちびちびと檸檬果汁を少しだけかけた。


「この檸檬果汁の香りがすっごく贅沢な香りがするね」

ぼくが言うと

「これを贅沢だと思っていることが、なんか悲しい」

チナミは言った。戦災前のチナミはかなりの富豪の家の娘だった。

チナミはぼくのから揚げには、少しだけ多めに檸檬果汁をかけてくれた。


チナミの優しさを意味する少しだけ多めの檸檬果汁と、チナミの可愛い視線だけで、ぼくはとてつもなく幸せなのだ。


から揚げだけの食事に、可愛いだけが取り柄の、貧しい美少女魔法使いは

「貧乏は嫌!貧乏は嫌!貧乏は嫌!」

と、ぼくに言った。


そんな事を貧乏勇者に言っても、何の解決にはならないのだが。


「ぼくらは戦災孤児だ。こうやって生きてるだけで、運が良いんだよ」

「良くないよ!そもそも戦災孤児だって事だけで、運に見放されてるよ!」


戦争はぼくらが12歳の時に起こった。

そして、ぼくとチナミだけが生き残った。

それから3年、ぼくらは2人で生きてきた。


そんなぼくらに再び災難が舞い降りてきた。


超大魔法使いが、大洪水を起こした。

正確には、大洪水ではなく大洪酒。


空から大量の酒が降り続けた。

それもこれでもかって言う美酒。


「ここに居たか」

テントの外で誰かの声が聞こえた。

村長の息子だろう。

ぼくがテントから出ると、村長の息子が溜息をついた。

顔も見るなり溜息をつかれる筋合いはないのだが。


「お前らさぁ、冒険者なんだから、大魔法使いに止めてもらうように言ってこいよ!」


村長の息子は金貨2枚を投げた

決してモノを頼む態度ではない。


「しょうもない連中め」

そう言うと、美酒の雨が降る道を帰って行った。


村に冒険者は、レベル1のぼくらしかいない。

村として、何かしなくてはと、仕方なくぼくらに頼んだのだろう。


チナミは、地面に落ちた金貨を拾うと金貨を、親指で飛ばして、落ちてきた金貨を左手の甲に乗せ、右手で金貨を覆った。

「もし表なら、チャンス到来、裏ならただの災難」

ぼくはの手の甲を見つめた。


チナミが右手を上げるとキラキラ光る金貨が現れた。

「どっちが表だっけ?」

「うーん、解らないけど、表って事で良いんじゃない」


とりあえず、貧しい美少女魔法使いと一緒に、超大魔法使いのところに行った。



【下】につづく

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