2nd SINGLE「NURSE・CALL」

五十嵐璃乃

01. NURSE・CALL

第1話

 脂汗のせいで、病衣が肌にへばりつき、そこへ激越な雨が降り注いで、巡り巡って、それは僕の目から溢れた。


 これが或る小説の一節とかだったら、美しいなぁと妄想に耽っていたけど、そんなのはやめて、単純に言えば、僕は、雨に打たれながら泣いていた。ここは、XX第二病院の外側。灰色の雲の下、平凡な畑が僕の眼の前に広がっている。病院の壁沿いには、沢山の花壇が並べられていて、丁寧に手入れがされていた。

「風邪引くよー。大丈夫?」

 雨粒が身体に当たらなくなった。見上げると、少し変色したビニール傘があって、横に視線を移すと、川谷かわやさんがそれを差し出してくれていた。

「まーた、病室抜け出したでしょー? もー、毎回探すのは面倒だし、ヒヤヒヤするからやめてよねー」

「……怒らないんですね」

「いや、怒ってはいるよ!?」

「そうかもだけど、川谷さんは、病院としての規則がどうたらこうたらとかじゃなくて、僕のこと心配に思ってくれて、そう言ってるんですよね?」

「……まぁ、確かに。でも、そう思ってるなら、もう、こういうことはしないでよねー?」

「はーい」

 生半可な返事しか出来なかった。

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 啓一君は、結構な頻度で病室を抜け出す。毎回毎回「脱走」だなんて周りの人たちは言ってるけど、結局は、院内か、病院の一歩外ぐらいのところに居る。そして、いつも、ボーッとしている。きっと真面目な子なんだろうけど、正直、よく分からないところが多い。彼は、入退院を繰り返していて、病院にいるのが一年の大半だった。学校の勉強とか、家庭のこととかが心配だけど、心配しないといけないような素振りもしてないので、今はそこまで気にしないようにしている。ご両親と会ったことは何度かあって、その時は、啓一君と仲良く話していた様子だったけど、それは、全部、入退院の時で、お見舞いでご両親が来たことは一度もなかった。

 私について言えば、私は、彼が初めてこの病院に入院した時の担当の看護師だった。そこから、担当の回数を重ねる内に、専属の看護師のような感じになっていって、結果として、今は、仲の良い関係になっている。

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