最後の魔法使い

「…とうとう来た」

私は夜空に一際大きく輝くスーパームーンを見上げながら呟いた。


私はいわゆる「魔法使い」と呼ばれている。

しかも「世界で最後の」という前書きがついている。

別に他の魔法使いが「魔女狩り」に遭ってしまった…というわけではない。

この文明が発達した社会に「必要がなくなった」のだ。


魔法が全盛だった昔とは違って、今は何でも機械がこなしてくれる。

 蛇口をひねれば水が出る。

 スイッチひとつで灯りがともる。

 長距離移動はホウキの代わりに飛行機で。

「高度に進んだ文明は、魔法と区別がつかなくなる」とは、よく言ったものだ。

そんな進んだ文明あふれる世の中に、魔法が必要なくなったのだ。


世界中に何人もいた魔法使いも一人、また一人と姿を消していった。

年老いていく者、自ら魔法を捨てた者。

やがて「魔法使い」は、私が最後の一人になってしまったのだ。


私自身、魔法使いであり続ける大きな理由は特にない。

たまたま私が最後の一人になっただけのこと。


なので私が最後の一人になった時、ある決意をした。

「最後の魔法使い、一世一代の大魔法」をかけてやろう…と。

それから私は色々な下準備を進めて、やっと今日、最後の大魔法の準備が整った。


町で一番高い場所にある丘の上に立って、深呼吸をひとつ。

さぁ、最後の魔法使いの最後の魔法の発動だ。

多分、私の持つ魔力の全てを注がないと成功できないだろう。

全神経を最後の魔法に集中する。

そして「ここだ!」と思ったタイミングで、一気に全ての魔力を解き放つ。

私の体から、魔力がどんどん吐き出されていくのが判る。

やがてほとんど全ての魔力を吐き出して、最後の魔法がかけ終わった。

その瞬間、「最後の魔法使い」はこの世からいなくなった。




最後の魔法をかけてから一ヶ月。

世界は今までとほぼ変わらない日常が繰り返されている。

ただひとつ違うことといえば、世界中の人が「小さな魔法」を身につけていること。

とはいっても大それたものではなく、「生活にちょっとしたプラスになる力を発揮する魔法」だ。


あの日私は、「世界中のみんなが魔法を持つ」魔法をかけた。

みんなが魔法を持てば、それはもう魔法ではなく「その人々の個性」になるのだ。


私もほとんどの魔力をなくしてしまって、今では「酸っぱいみかんを甘くする」程度の力しか無くなってしまった。

でも、それでもいいと私は思う。

「魔法使い」だって、きっと最初はその程度の力しか持っていなかったのだから…

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