第40話 運命なんて、自分が決める

「来たよ。来てあげたよ。出てきなよ」

 場所を指定された訳ではなかった。

 ただこの場所が町で一番怪しいし、何よりも。

「無貌の少女、さん」

 山田の目の前に立っていたから。

『来たね、ゆうき』


 無貌の少女。

 海辺町の夏祭り頃に現れ、周囲に全く警戒感を抱かせず紛れ込む。実際に接した人に聞けば、知り合いのように見え、全く違和感を感じなかったという。自分の顔を持たない、つまり「無貌」ということだ。

 背丈は山田の胸辺り、暗闇のように黒い髪はいわゆるおかっぱで、ランドセルを背負っていればテンプレ小学生だ。

 ちなみに山田はお祭で浮かれきったピンクのしっぽ柄浴衣だ。しっぽ?毛虫?

 彼女の全身から放たれる憎悪の波動が質量を持って山田に襲いかかる。

『私の、お祭りのお手伝いの邪魔をして……許さない!』

「許さなかったらどうするの?」

 あれ?山田は少女の怒りのベクトルに違和感を感じた。

『何も出来ないから余計悔しいんじゃないの!馬鹿ゆうき!』

 常にうつむいていた少女がその顔を上げる。

 確かにすごく可愛いとか、特徴的な、例えば目が三つとかあるわけでもない、見た目相応のどこにでもいる幼い顔。祭りの忙しさでちゃんと確認しなければ、知り合いの女の子がいたな、くらいにしか思わないかもしれない。

 そんな子が、今は涙目で山田を睨みつけている。

 え?何コレ。ちょっと可愛いんですけど?

『せっかく私がお母さんのお手伝いして、チラシも全部準備したのに!あなたが最後にほめられるなんて!』

 なんと言うことだ!山田は最近の母親のことを思い出す。夏祭りの責任者になった割には、いつものように余裕かましてんなと、うすうすは思っていたのだ。面倒なことは全て、いつからか自分の家にいたこの少女がやってくれていたのだ!

「あ~なんかゴメンね。ずっと手伝ってくれてたの気付かなかった。でもさ、私もお母さんにチラシ配ってきてって言われたら、断れないよ」

『……お母さんが、あなたに、配ってって、言ったの?』

「そうだよ。なんか話し噛み合わないとは思ってたけど……楽しみにしていたんだね、ホントごめん」

『そうなんだ……』

 少女から吹き出す圧がぴたりと止まる。

『ゆうきもお手伝いしてたんだ……私勘違いしてた、ゴメン……』

「!」

 なんだこの素直な怪異は?可愛すぎる。

 つい最近、萌えの新境地に達した山田には、萌え攻撃が特効だった。

「いや、お互い誤解が解けて良かったよ。じゃあ私、用事があるから……」

 さっきまで割と悲壮な決意とかしてた、山田と無貌の少女。あっさりと和解して、それぞれ別の方向に歩きだす。

『そうはいかないんだよ……』

『キャッ』

 謎の声に山田が振り返ると、「萌えの少女」が怪しい黒マントの集団に囲まれていた。

『君に抜けられると、僕たちが困るんだ』

『我らとともに来てもらおうか……』

『凶星の一つ、無貌の少女よ!』

 幾人かの黒マントに羽交い絞めにされて、拉致される寸前だ。

 目撃した以上はこのまま知らないふりはできない。しかし、止めに入りたくても多勢に無勢。こんな大勢の相手なんてできない、一人でも無理だ。

 でも……今の山田には「力」がある。通常は人相手に使ってはいけない力だろうが……「萌えの幼女」を救うために使わずに、いつ使う!

「あんた達、女の子一人に寄ってたかって、どっから見ても悪者だね!」

 山田は勇気を振り絞り、黒マント達の前に進み出た。

『何だコイツ……』

『お嬢ちゃん、死にたくなければ……』

『いや待て、この女は!』

 騒ぎ出す黒マント達。山田は浴衣の懐からミャウドライバーを取り出す。

「死にたくなければ、何?……私へ暴行する意思を見せたわね?正当防衛の条件は成立してってことかしら?」

『ゆうき……?」

 突然、威圧を放ってきた山田。その変貌に黒マントも、無貌の少女も動きを止めてしまう。

「少し、OSHIOKIが必要ね……」

 山田は右手のミャウドライバーを高く掲げ、叫んだ!

「キュリピュア!ギャラクシーアップ!」

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