第37話 伝説の木の下で

「おじさまの所は、佐久間寿司はお店を出すの?」

 シズカさんの晩ご飯は回らない佐久間寿司だ。

「ん?ああ、祭りか。出すぞ、寿司ではないけどな」

「お寿司やさんなのに」

「寿司はなま物だからな。うちはずっと焼きそばだ」

「……私、焼きそばも好きよ?え?焼きそば?」

「うちの自慢の「ガリ」を細かく刻んで、一年寝かせた特製ソースで仕上げるんだ。C++級の旨さだぜ!」

「え~っと?」

 そのたとえは、良いのか?微妙なのか?


 

「この数日、ずっとスイレンと一緒でさ」

「ホホウ」

 食事も終わり、佐久間に温かいお茶を持ってこさせると、お茶請けに美味しそうな話も持ってきた。

「今度のお祭りも一緒に回ろうって誘われてて……これってそういうこと・・・・・・なんだろうか」

「自分で考えなよ」

「まあそうなんだろうけど」

 夏祭り。この前やった気がするが、二回目の夏休みがあるから、祭りも二回?変な町だ。

 しかしこれは使えるぞ。山田の自分に対するラヴ度が上がっていることには気付いている。ここは雰囲気に押し流されてみるべきではないだろうか。スイレンのこともずっと佐久間との関係を押して押してしていたからか、ずいぶんその気になりだしている。シズカは時が来たことを悟った。

「私はね、伝説の木の下におびき寄せてブチュってやろうと考えてる。佐久間、知り合いがブチュってるの見たくないから、時間はずらそう」

「何だよ、生々しいな。伝説の木ってどこだよ。姉さんは観察処分中じゃなかったのかよ」

「ムウ……」

「ブチュる?僕が、スイレンと……?」


 翌日、祭り少し前。山田旅館。

 いつものカラーコーディネートのお出かけ着。最近はスカートが混ざるようになったり、それがひざ上丈だったり!後は、やっぱり配色がねえ……。

「ゆうき、どっか行くの?」

「シズカの所」

 お世話係ですので。

「え~今日も手伝ってよ」

「何?」

「お祭りの準備よ」

「めんどう……」

「昨日までは何でも任せてって、言ってたじゃない」

「言ってないよ」

「ほら、あんたが作ったチラシが届いたよ。シズカちゃんと配ってきてよ」

 全部ではないが、けっこう重い。

「む~」

 むーむー言っても山田はいい子だ。母親の手伝いをしないという選択肢はない。

「わかりました、行ってきますよ~!」

 町の噂では色ぼけなどと不名誉な扱いがされている娘だが、素直ないい子に育ってくれた。さち子にはそれが嬉しかった。 

『お母さん……』

 さち子の後ろに影が立った。

「あれ?「ゆうき」どうした、忘れ物かい?」

『みんなに配る、チラシ……』

「玄関に置いてたでしょ?暗くなる前に配りきってよ」

『出遅れた……?私のお仕事……ゆうき、許さない』


 チラシを配り歩くのは、山田、シズカ、そしてスイレン。人出の多い商店街をおしゃべりしながら歩く。

「そうなんだ。スイレンちゃん、覚悟決めたんだ!」

「うん、お祭りの夜、私はヤツの唇を奪うわ!」

 え?っと振り返る通行人А

「スイレンちゃん、私も少し仕込ませてもらったよ」

「シズカさん!?」

「お祭りの夜、伝説の木の下で……あいつは君から目を離せなくなる」

 シズカの芝居がかったイケメンムーヴに、通行人Бが頬を染める。

「シズカさん、いえ、師匠~!……伝説の木って何?」

「こんの、馬鹿弟子が~!」

「ほら、二人とも邪魔になってる!」

 拳を合わせ、なにやらキャッキャと問答し始めた二人に、山田は不機嫌を隠さない。

「シズカ!お祭りの日は私と回ろう!」

「喜んで!」

 シズカさん、主人公が逮捕されたら困るんですけど?

 

 同時刻。

 海辺高校裏の魔神百八窟の第四窟。立地的に便利で人気のその闇の奥で、怪人達が蠢いていた。

『まもなく「宴」が始まる……』

『言い伝え通り、全ての凶星が災いの位置に揃うとき、我らの悲願は叶う』

『宴の夜、伝説の木の下で全ては始まり……』

『そして終わるのだ!』

『ククク……時空監察官シズカよ、貴様の破滅の時は近い!』

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