第35話 シズカな時間

 シズカに届いた物資の数々。その中に気になる板が一枚、入っていた。

 板には、「ゆうき殿スコップ殿宛」と書かれていた。とても綺麗な手書きの日本語でだ。その下には見覚えのない文字。

「シズカは見るなって。私が書いたのか。これ、ビデオレターだよ。未来の私から二人へ。気になるけど、見るわけにもいかないか……」

「あれ?シズカさんなら構わず見るかと思ってたよ」

「見たいんだけどね、時間的不都合タイムパラドックスが発生しちゃうかもしれないからね」

「その割にはだいぶ好き勝手してるけど?」

 確かにそんなイメージしかしない。 

「大丈夫。あいつらは元々いなかったんだから。それに、思い出してみてよ。私あんまりやらかしてない・・・・・・・んだよ?さ、私は荷物の整理をしておくから、リビングで二人で見てきたら?」


 二人は板をリビングのテーブルの上に置いて、シズカに教わったとおり中央のボタンを押した。

 板の中央から光が立ち、ホログラムの立体映像が現れた。

『えっと、この手紙はゆうきとスコップ宛だからね、シズカ、あなたは見ないこと。他の人も遠慮してほしいな。あと、映像を見るときは部屋を明るくして……』

 少し軍隊を思わせる濃い紺色のスーツを着こなした大人の女性が映し出されている。

 彼女が話している内容から、おそらくシズカなのだろう。初見で判断できなかったのは、ビジネスメイクがしっかり施されていること、そして何より、シズカの最大の特徴であった腰まで届く美しい黒髪が、ベリーショートともいえるくらいに短くカットされていたことによるだろう。今のシズカより数年後といったところか。 

「何これ、めっちゃ美人なんだけど」

「しかもなんか大人っぽい?」

 そんな二人の驚きを想像してだろうか、シズカは満足げに微笑むと、今と変わらない声で話を始めた。

『じゃあ改めまして。ゆうき、スコップ、元気ですか?ま、元気なのは知ってるけどね。私はシズカだよ。あ、あの頃は山田って呼んでたかな。こうやって話しかけると、あの頃の楽しかった思い出が……ちょっとごめんね。せっかくのメイクが……』

 シズカがこの後何年この時代にいたのかはわからない。二人にとってはまだ知り合って1カ月。思い出と言うほどにもなっていないが、とても大事な思い出であるようにシズカは語る。所々で自分の行為の正当性を焦りながら主張する様子は、今とあまり変わらないようだ。

『今回届けた荷物には、あなた達宛の物も入ってるの。スコップにはあの時話してた薬ね。ちょっと手続きに手間取った。それと宇宙翻訳機。お姉ちゃん来てるんでしょ?渡してあげてください』

「バレてるよ、ミツルさん」

「え?ほんとに?」

『ゆうきには、ミャウドライバーを。ふふ、変身アイテムだよ。可愛くしておいたからね』

「!」

『……これから少し大変なことが起こるの。ゆうき、私を助けてあげてね』

 山田待望の変身アイテムだ。シズカの変身と山田の願望の両方を知っているスコップ。どっちの変身だ!?と気が気ではない。シズカは優しく微笑むのみ。たぶんキュアキュアな方だろう。そうであってくれ!

『実はね、あなた達の写真を見ながらお話ししているの。一人で喋ってるんだけど、あの頃に戻ったみたいです。……ああ、会いたいな。……また、ごめんね、歳とると涙もろくなっちゃうね』

「会いに来れないのかな?」

「この時間のシズカさんがいるからね……たぶん同時には存在できないんだよ」

 現在の、しゅんとしててもどこか愛嬌のあるシズカとは違い、涙を流す画像のシズカには二人とも心から同情を感じていた。

『さて、そろそろ時間です。うん、シズカをよろしく。自分で言うと何だけど、あれでも凄く頑張ってるのよ?優しくしてあげてね。じゃあ、さようなら』

 最後はあっけなく終わった。

 ピロリン♪という音がして、再生が終わったことを察したシズカが声をかけてきた。

「どうだった?私どんなだった?」

 ドヤドヤワクワクで尋ねてくる。二人は感動の余韻に浸ることも許されない。

「「あ、たぶん別人でした」」

「え?そんなことある?え?どういうこと?」

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