第33話 シズカ、ヒートエンド!

 めっちゃ怒られた。

 山田はこんなに怒られたのは小2の給食の時以来だと思った。

 仕方ないと思う冷静な自分もいるが、そんな自分、いるならもっと早く出てこいよ、とも思う。

 超大好きなシズカさんが傷も治癒していないのに家から消えていたなんて、全く気付かなかった。まさかミホミホの家に居候していたなんて。取り返しに行かなきゃ。

 しかしミホミホは最近自分に厳しい。まあ、ヤオハチと仲良くしているのが気に食わないのだろうけど。スイレンも仕方ないとして、佐久間も睨まれているのはちょっと面白い。でも、私達は小さい頃から何かあったら集まってたから、今更群れるなと言うのも難しいよ?ヤオハチもミホミホともっと遊んでやればいいのに。


 シズカさんが帰りたいなら止めはしない。とミホは言った。大人達の間で取引が成立しているようなので、無理に引き留められないのだ。

「シズカさん」

 シズカさんは寝ている。怪我は治ったようだが体力はまだ戻りきってはいない。透き通るような白い肌の色と、町に来た頃のような浴衣っぽい姿が余計に病人のように見えてしまう。

 山田の声が届いたのか、猫耳がピクリと動く(幻視)。

「……山田?」

「おいで~おいで~」

 チリンチリンとベルを鳴らすと、ナントカガーデンに帰りたがる動物のようにシズカは布団から這い出てくる。

「山田、何処に行ってたの~?」

 よよよ・・・と山田にしなだれかかる化け猫。

「さぁ、おうちへお帰り」

 決めセリフまで言い切って満足な山田。

「私の家だけどね」

「嫌だ!」

「ヘ?」

「山田旅館は絶対嫌だ!お化け出るもん!」

「シズカさんお化け怖いの?やっぱり意外と子供……」

 隙あらば煽ってしまうのはミホの悪い癖だ。

「ミホも!お化けに乗っかられて!襲われてみると良いわ!何処までその意地悪口調が保つかしら!」

「う~ん、確かにいい気持ちではなかった・・・・けど、この町ではそれほど珍しいことじゃないし。昨日もシズカさん、お化けに上から見られてたよ?」

「にゃぁぁぁぁぁぁぁ!こんな町、もう……!」

 昔からシズカはお化けとかが怖くて嫌いだった。でも本物は見たことなくて、大人になっても怖いことは怖いが、お化けなんて嘘さ、レベルには落ち着いていた。しかしこの町で本物と遭遇した。

 ちなみに一般的な地球人が最も怪異とお近付きになるのは浴室の頭髪洗浄タイムだが、ケンタウリ人のお風呂は全身カプセルによるマイクロバブル洗浄が一般的なため、髪を洗っていてなんか後ろが気になって……でも頭を上げたら目の前になんかいるかも……でも後ろが……なんてことにはならない。

 こんな町もう嫌だ、出て行ってやる……とまで言い掛けて、山田が心配そうにしているのが見えると、シズカは閃いた。

「……もう、怖いから山田!今夜はまた一緒に寝てほしいな~」

 第七話の冒頭を再現しようと言うのだ。

「え、ええ~!」

「ダメかニャ?」

 病床のシズカさんは浴衣で、今はこう、山田にすがりついてる状態だ。山田のお腹に顔を埋め、見上げてくる。暖かくて柔らかい、確かな重みが山田を惑わす。やや乱れた襟の合わせから覗くのは白き双丘の……

「エッチなことするの!?お化け怖い話はどうなったの!?ゆうきは大人になっちゃってたの!?」

「ひゃっ」

 ありがとうミホミホ。セルフレイティング変更の危機は回避された。 

「ミホミホ……ありがと。ちょっと危なかった」

「え?続きは?エッチな事しないの!?」

 撤回しよう。ミホは好奇心旺盛な小学六年生だ!

「ミホ。あなた命拾いしたね……」

 シズカは長く伸びた爪をミホに見せつけるようにしまう。瞳は金色に輝いていた。

「一度助けた相手を殺すつもりか……シズカさんそっか強かったんだった。でもなんかおかしくなってない?バーサーカーモード?」

 久しぶりのヤマダニウムを急激に摂取したことにより、猫にマタタビよりヒドいことになっている。ヤマダニウム酔いだ。

「シズカが強い?あ、ちょっとシズカ、あんまり寄りかかってこないで、重い!」

「山田!山田!ニャ~!」

 山田はシズカに押し倒されてしまった。

 その姿はまるで盛りの付いた猫、ではなく単なる性犯罪者だ!

「これが大人の……じゃなくて!えっとシズカさん?子供も見てるんでエッチなのはちょっと……」

 ミホも大興奮。

「美保、下がってろ」

 突然現れたのは、ヤオハチだ。

 大きな手が美保の頭に優しく置かれて、少しクシャクシャされる。

「旬ちゃん……」

 ヤオハチは自然な足取りで、山田にスリスリして大興奮中のシズカの背後に回ると、これまた自然にシズカの首筋に何かを刺した。

 するととたんにシズカの身体から力が抜け、昏倒してしまう。

「うわ……ちょっと効き過ぎじゃ?大丈夫かよ」

 ヤオハチはシズカを山田の上から退かそうとするが、余りにも乱れたお姿に触るのをためらう。記憶にはしっかり残すが。

「美保、シズカさんを頼むよ」

「噛み付かない?」

「多分。ぎりぎり生きてる程度らしいから。ゆうき、出てこれるか?」

 

 気を失ったシズカを彼女の家に運ぶと、彼女の姉と名乗る人物が現れた。

『私は時空監察官監査官のミツルという。このたびは妹が迷惑をかけた……イヤ、迷惑という言葉で済ませてはいけないな。正式な謝罪は後ほどご家族にもさせてもらうとして、今は私の謝罪を』

 ミツルは美しく土下座した。

「シズカは、どうなるんですか?」

『シズカは今夜、本部に戻される。時空監察官の資格も剥奪だ。現地の協力者に性的暴行などあってはならないことだ。君たちの前には二度と現れないと約束しよう』


 これが、海辺町のとある夏に起こった少し不思議な出来事の全てだ。そしてこの不思議な町に起こる不思議なことのほんの一つにすぎないのだ。

  

シズカ幕末水滸列伝【完】




 大星雲進次郎先生の次回作にご期待ください!

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