第32話 物語は未だ収束せず
山田ゆうき。
海辺高校一年生。文武ともに成績優秀、性格明朗。丸いメガネがトレードマークの女の子。茶色のボサ髪ショートで体型の過不足はなし。普通に可愛い。一部のコア層に異常な人気あり……。現在、「色ボケ」状態異常アイコン点灯中!
「これが私の、今のステータスってわけ!何この「色ボケ」って!」
山田は吠えた。朝のホームルーム前の教室で。控え目に言っても迷惑だ。山田を囲む数名の女子生徒達も耳を押さえて迷惑顔。
「ゆうき、うるさい」
クラスメートの
「私らの名前雑っ!」
「え?可愛いじゃん、ヘトチ」
「リズミカルで、良い」
「飾らなさが、好印象よね」
「そうかな?照れるな……」
三人の母親は幼い頃からの親友で、ある約束をしていたとか……
ああ、そうだ。今日は他の地域に合わせて、全国模試のため登校日になっている。海辺町の夏休みはまだ終わっていない。
「ところで私の評判、夏休み前とかなり変わってない?確か、「可愛い妹?」だったよね?それはそれで恥ずかしかったけど、「色ボケ」って……」
「色ボケだよね」
「どこが!」
「中野先輩とつき合ってるし?」
「つき合ってないし……」
「シズカさんともラヴラヴだし」
シズカと言われると、山田は耳まで赤くなる。
彼女が行方不明の間、だいぶ乙女を拗らせてしまった山田。恥じらうように見えるその姿は、学友から見ても非常に可愛く、艶めかしい。
「えっと……シズカさんは」
急激な体温上昇を感知した身体は水分を放出。眼球の乾燥防止のため涙も分泌される。いわゆる、お目々ウルウルだ。
「ゆうき、アンタ……マジ?」
「これが、コア層がこぞって賞賛する「姫」の実力!?」
「ゆうき!好きだ~!」
模試前の最終追い込みタイムなのに、迷惑な連中だ。この四人は成績優秀なので、自然体で模試を受けるタイプ。名前書き忘れたらいいのに!
「シズカ、早く起きてこないかな……?」
同じ頃、異邦人達の洞窟。
「改めまして、僕はスコップ。シズカさんとは仲良くさせてもらってるよ。ショッピングしたり、朝まで飲んだりね。まぁ初見では殺されかけたんだけど」
『妹がとんだ粗相を!』
シズカが言うにはケンタウリ文明に土下座という習慣が導入後されたのは古く、地球文明と交流を持ち始めてすぐのことだったらしい。地に伏せ、全身で謝罪を表す姿はケンタウリ人達の気性によくマッチしたのだろう。今では地球人がふざけてスライディング土下座などしようものなら、日単位正座で説教されるという。
そんなこんなで見事な謝罪を披露したミツル。シリウス人はその辺どうでも良い。
「いやいや、妹さん誰にでもそうだから」
『シズカ……』
土下座のままプルプル震え出すミツルさん。
環境に不慣れな異邦人を自分のテリトリーに招き寄せ、なんて事無い会話を装いマウントをとる。スコップは自分が最低な事をしているように感じた。だってあのシズカの姉だ。身構えてしまうのも仕方ない。イノセント・スコップ。
「あ、ごめん。お茶も出してなかった」
例のアレだ。今日もマーブルがかき混ぜもしないのにウネウネしている。
土下座を作法に則り解いたミツルに再度椅子をすすめ、スコップは例のアレをミツルの前に並べる。
「赤と青、どちらにします?」
『すまないね、青をもらおう』
「やっぱり青だと思った」
ブスッ!ビクッ!プルン
『どうしてそう思ったんだい?』
ブスッ!ビクッ!プルン
「何となく?」
『何だいそれは?実に第三理論の文明らしい答えだ』
ミツルは普通にブスッてやって朗らかに笑った。
『私がやってきた理由だったね』
ズルズルと音を立てて、アレを飲み干す。ちなみにこれが正しい作法だ。だって暴れるんだもの、残り少なくなったら。
『見てみたかったんだよ。シズカが可愛く働く様子をね』
「アンタそれほんまに言うてはります?」
同じ頃、料亭みほ。
「お母さ~ん!シズカさん動かなくなっちゃった!」
「自己再生モードよ……むにゃむにゃ」
「お母さ~ん!シズカさん寝言でむにゃむにゃって言った!スゲェマジキセキ!」
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