第27話 バトルマンガの登場人物のような強靱な肉体と精神。そんな者に私はなりたい

 シズカが突然いなくなって二週間になる。

 山田が毎日様子を見に来るものだから、オプションの幼なじみたちが毎日現れ、第24号窟のスコップの前庭はちょっとした休憩所みたいになっていた。

 ちなみに、三日目にスコップが第19号窟に入って調べてみたが、そこには何もなく、普通の奥行きが少しある壁に空いた単なる穴にになっていた。確かここにはゴミ出しにうるさいネズミ型異星人が住んでいたはずなのだが。当然シズカの姿もない。

 山田は毎日悲痛な表情でやってきては、シズカを待ち、お祈りをして帰って行く。頼もしい幼なじみたちのおかげで身体に変調は出ていないようだ。

「シズカ……」

 もう何年も気軽に話すことが出来る友人がいなかったスコップにとって、たった一ヶ月だったが久しぶりに楽しい時間だったのだ。

「シズカ……君は、どんなオチをつける気だい?「なにぃ!お前は死んだハズ!」程度なら、許さないよ?」


 数日後。今日も山田は悲しそうにやってきた。

 いつまで続くんだろう?気持ちも分かるけど、僕も商売がな……。

 と冷血なスコップが考えたとき、爆音と振動が山を襲った。

 驚く山田たちと、これもまた驚いて一斉に飛び出てくる住人達。その姿をチラリと見てしまった佐久間の正気度が激しく減った。

「ストーカー、ほらこれでも飲んどけ」

ガックリしている佐久間にスコップはドリンクを渡す、アレを。

「ありがとう先輩、落ち着いたよ。いろんなのが住み着いてるんだな……」

 山田が信じられない者を見る顔で、スイレンは泣きそうな顔で自分を見ている事に佐久間は気付く。

「どうした?それより、今のは……?」

「上だね。シズカが帰ってきたのかもしれない!」

 山田たちはこの数日何度も出向いた第19号窟へ走った。

 第19号窟からは土煙が上がっていて、天井の一部も崩落しているようだった。

「シズカ!?」

「待つんだ姫!僕が見てくる。ストーカー、ついておいで」

「ああ!」

 さすが本職だ!

 

 元々浅い穴だ。崩れた入り口の瓦礫を越えると、それは見えた。

「人?」

 そこには、人形の穴。壁に埋もれる「裸のシズカ」がだった。いちおう壁向き。

「ありゃ~」

「姉さん!?」

「待て待て、いったん出るよ」

「でも」

「君、こんなだけど相当立派な女性の裸体よ?見たいのは分かるけど……」

「え?いやそんなことは」

「大丈夫、死んでないし、しばらく起きない。いちおう身体に掛けるシーツでも持ってこよう」

「……そうだな」


「スコップ先輩!シズカでした?」

 山田はちゃんと待っているいい子である。

「ああ、でも相当ひどい状態だから、シーツでも掛けてから運び出そうと思ってね」

「そんな!」

「見に行っても良いけど、気をつけるんだよ……足元」

 山田は奥へ走っていく。

「先輩、また変な言い方しましたね?ひどいのは本当?」

「うん、アレはひどい。本人は気を失ってるからいいんだろうけど」

「どういう?」

『ぎゃ~シズカ!どうして埋まってるの~!』

「私も見てくる!」


 本人は気を失っているのに、本当に騒がしい。

 スコップは友人が帰ってきてくれて嬉しくはあったのだが、この周囲も含めての騒がしさはどうにかならないものかと嘆息する。

 てっきり無傷で帰ってくると思っていたシズカが重傷?いったい何が起きたのだろうか。スコップは胸騒ぎを感じた。時代が動き出そうとしているのか?


 答え合わせ。

 謎の時間加速空間はシズカの時間速度と揃った瞬間に泡のように消えて無くなった。そのエネルギー差分と、超疾走していた自身のエネルギー。洞窟の壁までは0メートル。そして衝突。

 ハイパーモードにしていたおかげで、シズカは壁にめり込んだだけで済んだけど、とても痛い。慣性を全て相殺する形で戦闘スーツは消滅。ミャウドライバーも大破、変身前の衣装は再生されず。

 かくして、裸で壁にめり込む美女という、シュールな芸術作品が完成したのだ。

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