第25話 うちのシズカ知りませんか
シズカがどうやら町からいなくなったらしい。
「ねえ皆、どうしてシズカがいなくなったのに慌てないの?何か聞いてるの?」
誰も心配するはずがない。これはシズカが疎まれているわけではなく、心配する必要がないと分かっているからだ。
諸兄もご存じのように、戦闘力とキレやすさでは作中最強のシズカさんだが、実は肉体強度はそれほどあるわけではない。むしろ柔らかいくらいだ、いろんなトコロが!
だから、心配する山田が今回は正しい。
「何時からいないんだろう?」
「どうしてゆうきが知らないの?」
シズカさんの世話係でしょう?言外に責めるスイレン。
「三日前かな?の昼間はいたぞ。公園でバッタを捕まえてたから。にゃーにゃー言ってた」
あまりにもアレだったんで、声はかけられなかったとヤオハチ氏は証言する。
それはさぞ可愛かっただろう、見守りたくもなる。想像して皆ほっこりした。
「私も。三日前の夜は、家の明かりは点いてなかったよ?九時頃かな?ゆうきの家かな?って思ってたんだけど」
「うちは……お化けが出るからって、来てくれなくなった」
風呂も熱いし。ちなみにシズカハウスにもお化けがいるのだけれど。
「姉さんも大人なんだし、仕事柄遠くへ行くこともあるさ」
いくら話し合っても、シズカがいないのだからどうにもならない。佐久間の意見で今日は解散となった。
「シズカと電話が繋がらない!電波の届かない地域って……」
冷血な幼なじみ達では埒があかない。翌日山田は学校裏の洞窟群に来ていた。昔から親交があり、最近はシズカとも仲のいい、先輩なら何か知っているかもしれない。
「先輩!」
「姫!?」
先月まではミステリアスな雰囲気の洞窟入り口だったのに、今は奥まったところにドアが嵌められて家の玄関みたいになっていた。宅配ボックスとか猫除けのペットボトルとか。その先輩がいるのはさしずめ前庭といったところか。
「どうしたんだい?ここはあんまり君たちが来るところじゃないよ」
「シズカが2日ほど家に帰ってないんです!先輩、何か知りませんか!?」
「まだ帰ってない?」
「何か知ってるんですね!」
「落ち着け、姫」
先輩は前庭に置いてあるテーブルセットに山田を座らせると、謎のドリンクを持ってきた。
「これでも飲んで落ち着いて」
「これ、大丈夫なんですか」
緑で赤で白なマーブルがかき混ぜもしないのにウネウネしている。
「?普通に※※※※※※※※※※※じゃないか?」
先輩はストローをブッ刺すと、なんたらいうドリンクは一度ぶるんと震え(たように見え)て、ウネウネを停止すると素直に先輩に飲まれた。
「え~っとのどは渇いてないので……」
「姫はシズカの仕事を知っているんだろう?」
「はい、時空なんとかって」
時空監査官シズカ。彼女は三百年後に事件が起こらないようにするためにあらゆる物を観察し、必要であれば処分する。23号窟の住人達は処分され、24号窟の住人は協力者となった。
「シズカはこの洞窟群の住人を調べる必要があると考えてね」
先輩は壁に貼った洞窟のマップを指差した。
「ダーツ?」
そう、まるでダーツ。何か綺麗に枠とか台とかを作ってて、暇大人の力を見せつけてくる。
「1から順にあたってもよかったんだけどね、どうせなら楽しもうって」
今は19の所にダーツの矢が刺さっている。黒猫模様が無駄に可愛い。
「一昨日の昼に、突撃訪問してから帰ってないってことか」
「危なくないの?」
「あそこは、ちょっと気が短いのかな?でも大丈夫だよ、シズカさんだし」
「え~?そりゃシズカなら仲良くなれそうだけど、もし相手が攻撃とかしてきたら……どうするの?」
「そりゃ戦闘になるね。あれ?」
シズカは山田には隠しているのだ、にゃーにゃー言って天然に可愛いが、実は無慈悲な戦闘マシーンであることを!
「……怪我しないかな」
いや、その心配は相手にしてやって!と先輩は思うのだが、たぶんバラすと後で面倒になる。
「そ、そこはいつも上手くやってるみたい。今回も向こうで歓待されてるんじゃないかな?彼女、銀河議会とやらでも重要人物らしいし」
「それなら良いけど……」
自分、ミップル、バグソス星人……全部初見で喧嘩腰だ。リュービィは分からないけど、たぶん一回シメてる。
「僕も後で様子を見に行くから、今日は帰った方がいい」
後で連絡するから、連絡先教えて!とさり気なくお願いすると、
「はい、良いですよ」
先輩は山田の情報をゲットした!
「先輩、なんてお呼びすれば?」
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