第24話 喫茶グリモワール

 とてもよくない。

 諜報員ミップルこと三井さんは焦っていた。笑顔は崩さない。

 彼女の経歴の中でも最大のピンチだ。今現在の状況ではなく、この状態が続いたり、とある人物に知られてしまったり……パナクヤバミだ。

 水の入ったコップを載せているトレーが震える。このままこの可愛くも憎たらしいお客に水をぶっかけて店から追い出すか?いやいや、そんなことしたら前世まで遡って消される。あの人は、時間移動自由自在らしいし。ていうか、なんでそんな人がこの時代に来てるのさ!

 そもそも、中野!なんでお前が、姫と喫茶店来てるんだよ!全てはお前のせいだ!


 店内の電話が鳴った。

 今の時間はお昼をだいぶ過ぎておやつ前。喫茶グリモワールでは一息付ける時間帯だ。

「みっちゃん?代わるの?え?……わかったよ伝えておくね」

 このタイミングで私にピンポイントか!シズカさんだよな~。

 初々しい学生カップルのオーダーを通し、電話を取ったオーナーに尋ねる。

「私がどうかしました?」

「ああ、シズカさんがね、今夜のパーティー用にタルト買ってきて欲しいって。みかん二つと、君の好きなのだって」

「……はい」

 つまり、静観して構わないという事か。ああ、でも仕事あがりにショッピングをって思ってたのになぁ……。私入れて3人?情報源はさっき外で見かけたスイレン達2人かと思ってたけど……。誰だろう?最近シズカさんと仲良いのって24号先輩だけど、あの人がこんなヤバい情報をシズカさんに渡すわけ無いし。新キャラか?

 カップル達の注文品が揃った。持って行くついでに情報は集めるか。

「お待たせしました」

「ありがとうございます、三井先輩」

「お仕事だからね~。ミルクセーキとコーヒーね」

 恋する乙女は可愛いのぅ。何を固まってんだ中野、デートなんか初めてじゃないだろ、あんたは。

「中野先輩も、こんなに可愛い後輩連れて喫茶店なんて、隅に置けないですね!」

「三井!ちょっと話が……!」

 まじかコイツ、デートの最中に他の女に話しかけるなんて!ほら、姫もほっぺプク~ってさせて、可愛い……。

「山田さん済まない、少し彼女の情報網で確認したいことがあるんだ!少しだけ席を外す」

「ゆうきちゃんゴメン。何か分からないけど」

 あこがれの先輩と美人の先輩が目の前で密会。プク~だ。


「三井、ヤバい!」

「先輩、近いです」

「ゴメン!でも、誰かにずっと見られてるんだ!」

「いつからです?」

「この店に入ってから……」

 そういえば、シズカさんが闇のバイヤーから監視装置を買ったとか言う話が出回ってたな。たぶんそれだろう。なる程、自分が見てるから、私は特に動かなくて良いということか。焦った~。

「あの子、妙なのに好かれますからね。そういう能力者に目を付けられたんじゃないですか?先輩」

「ひぇ!」

 何だ?私を怖がってるような反応するなよ。また逃げる……失礼な男だ。

「ゴメン、山田さん!ちょっと用事ができた。この埋め合わせはいつか必ず!」

 中野先輩は流れる動作で伝票を取り、会計を済ませる。見てよ、客の動きを邪魔しない、オーナーの踊るようなレジ捌きを!アリヤトッシター!

「なんて奴だ……。ゆうきちゃん、詳しくは言えないけど、少し急ぐ必要ができちゃったみたいで」

「そうなんですか……」


「シズカさん、さすがにやり過ぎじゃない?姫が泣きそうだったよ?」

 夕方、グリモワールをからあがって、シズカハウス。 

「いきなり何?私、何もしてないよ?三井さんを呼んだのは、山田がどんな可愛い表情でお話ししてたのかなって、聞きたくて」

「私も知りたい」

 24号先輩……。仲良しだよな、この2人。

「無理矢理呼びつけて怒ってる?タダとは言わないから、ね。ほら今度皆でショッピング行こうよ。帽子ぐらい買ったげるから。このメンバーで行ったら大注目だよ、きっと!」

 シズカさん、目立っていいのか!?

「まあ、お詫びなら受け取りますけど。さっきから何作ってるんです?不器用アピール?」

 さっきから、ネジの一本も締められてない。確かに小さいけれど。

「ムカムカ!」

「それ、効果音だから」

「監視用ドローンを……」

「もう諦めてさ、リュービィ辺りに組み立てて貰ったら?僕おなか空いた」

「あいつ気持ち悪いからいやだ。おなか空いたのなら、お寿司食べたら?ヤオハチ来なかったから、お昼のが残ってる」

「いいの?」

 ドローンって、まだ完成してないの?中野先輩を覗いてたのって、シズカさんじゃないの?じゃあ、いったい誰……?

  

 

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