不自由なこの子に救いと夢と

ハバタケル

1章 カレア・ラエル

第1話 俺は僕

夢を見ている。

夢の中で僕は俺だった。

ずっと海を眺めている。

夜明けの水平線を…その瞬間を…絵にしたいんだ。


『――ちゃ―』

――夢の途中で目が覚める。

続きを見ていたかったのに…俺はそんな事を思いながら、いつも通り時間を確かめようと枕元に置いているスマホの画面を確認しようとした。


(…スマホってなんだ?)

頭痛がする。今の自分が分からなくなる。


(……僕はラエル…4歳…のはず)

自分に自信が持てない。そんな時だった。

「坊ちゃま!朝ですよ!」

ドアが開いた。



***


「起きてたんですか?今日は早いですね!」

部屋に入ってきたのは侍女のアシエ。

いつも彼女が起こしてくれる。


「おはようございます。ラエル様、水飲みます?ブラシェ出して。」


「ねむいー、コップ持ってて、ほいっ」

続けて侍女のメナとブラシェも入ってくる。


手渡されたコップに魔術で水を注がれた。

「水ありがとう。あと、おはよう。」


3人と朝の挨拶を始めた時、横から手が伸びてきた。

「にーに。はよ。」

一緒にねていた妹のロシエも起きてきた。



カレア家で生まれた僕はずっと屋敷の中で暮らしている。

当主の母、魔法使いになった時期当主候補の姉、可愛い妹。

そして僕の侍女3人。それが僕の世界の全てだった。


姉は偶に会いに来てくれる。妹は毎日一緒に寝ている。

僕の毎日は朝昼晩の3回の食事と、侍女3人からの授業を受けて屋敷の中を走り回る。

1度も屋敷から出た事は無いけど、この生活に不満など無かった。

――昨日までは。


海を見たい。夜明けの海を…俺…僕の夢の続きがまだ残っていた。



***


昼食後に授業が始まる。

昨日までの僕は文字と簡単な計算が出来ればいいと思っていた。

侍女兼先生役の3人も怒らないからだ。

でも僕の中の俺は違う。外に行きたい。外を知りたかった。


ちゃんと授業を受けてこなかった為、基本的な知識を知らない。

この世界にはマナと呼ばれるエネルギーがあり、それを使って魔法や魔術を発動する事。マナとはこの世界全ての物に含まれているという事。それは常識だと。


1度だけ魔術を使用した事を思い出す、爪切りの魔術だ。

マナを流して使用するそれを僕は止めた。ひどく疲れたからだ。

そして爪は侍女のアシエにずっと切ってもらっている。

(思い返すと生粋の箱入りだな。何の苦労もした記憶がない。)


マナの使い方を教えて欲しいとお願いする。

箱と綺麗な結晶を渡された。


箱は杖と言うらしく杖にマナを注ぐと結晶に線を刻める。

マナの入れ具合で線が好きに変化すると。


「結晶に刻むのを【サークル】っていうんですよ。坊ちゃま、魔術ですよ!」


1度は挫折した僕の為に、アシエは飽きない様に考えてくれていた。



***


「海に行きたい。」

授業終わりに初めて外に行きたいと言った。

3人は驚いた後、泣きそうな顔になる。


「ご当主様に聞いてみないと…」

アシエがさらに不安そうな顔をする。

――以前の事を思い出した。


『母様に会いたい。』 

  『ごめんなさい、お忙しいようです…』

『前も同じこと言ってた!』

      『ごめんなさい、坊ちゃま…』

『いつなら会えるの?』

   『伝えておきますから…坊ちゃま…』


母は僕に会う気はなく外にも出さない気だろう。

授業で全く外については教えてくれない。


どうすれば外に出れるか考えている時だった。ドアが開く。


「ラエル、付いて来なさい。魔法を見せてあげる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る