軍葬~比べられぬ者たち~
駄文製造機X
第1話 夢幻
戦争を、戦闘を、酷いと言えるのはその当時そこにいなかったものが吐ける傲慢な意見だ。
私達に選べる道など、どこにもなかった。
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私は長い夢を見ていた。
戦地に送られ、特攻を命じられ、その準備をしている時に私達は負け、そこから80年生きてひ孫の小さな手を握った以来記憶が曖昧で、きっとその後死んだ。
そんな夢。
日本の國(ひもとのくに)
源秀7年。
私は17歳で、この國は戦争の真っ只中。
昨日思い出した記憶。果たしてあれは誰のなんの記憶か。
そして私に何を求めているのか。
特攻を3日後に命じられた私に何を訴えているのか。
この後に及んで命乞いでもすればいいのか。
自分の置かれている状況を間違っていると叫べばいいのか。
…そんなことはできない。
既に私より年上の気のいい隊士も、私より小さな丸メガネの隊士も特攻に出た。
今更、逃げろというのか。
私が知らないだけで、この國の、いいや、敵国の陣営でも戦果をあげ、……あるいはその手前で死んでいる。
”残酷な記憶”から推察すればそう思える。
「これは全体にはほとんど影響のない無駄死に近い」
そんな記憶もある。
…でも、特攻するのはそもそもそんなことのためか?
いいや、違う。本質的には徹底的に教育された「お國の為に」だ。
そして、途中からは「散った隊士の無念を背負って」だ。
それ以上になにがある?
それ以上に何を考えたら特攻できる?
それ以外を考えたら。
許嫁と結婚し、子供を持ち、孫を持ち、ひ孫の顔を見る。
そんな記憶もある。
逃げたい。なにより死にとうない。
だけれど、それになんの意味があろうか。
散った全ての隊士も同じではないか。
そして記憶の中でわかる。
敵も同じだ。
これは「殺し合い」なんだ。
「人と人の」
「憎き人ならざる敵兵」ではなく。
…。ぶるりと震える。
これは何を思ってのものか。
自分が「ほとんど意味なく」死ぬことか。
記憶のせいで憎しみが揺らいでいる敵兵への憐憫か。
私達をこう教育した國に対しての怒りか。
わからない。
だがたまらなく、虚しく悲しい。
我らは船で敵艦へ体当りする。
穴をあけ、鎮めるのだ。
深く息を吸う。
これは気の迷いだ。
そう思って目を閉じ、空を見る。
そして地面を見て、先程の「幻」を振り払う。
足元には蟹がいた。
今踏み潰せば、この蟹は死ぬ。
逃がしても船の排気かなんかで死ぬだろうか。
それとも敵国の砲撃によって散るのか。
それともあの「幻」のようにこれなりの子を、孫を、ひ孫をつくるのだろうか。
……。これすら踏み潰せないのに。
私は敵の艦を海へ鎮める。
きっと、その時考えるのは……。
やめよう。意味などない。
さあ、私の仕事を、使命を、全うしようか。
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