世界の崩壊を食い止めるため

天川悠里

プロローグ

出会い

世界が大きく揺れている。

暗雲立ち込める雲の下人気のない神社の境内静寂の中

唖然とした少女たちを前にして

それは手にした刀で一人の少女を貫いていた。

ただ一つ悪意の混じった笑みを込めてそれは言い放つ。


これでこの世界は崩壊するわっ!!

私を助けてくれたあなた達も、あなた達以外に助けを差し伸べなかった

学校の連中も、みんなみんな崩壊の道を辿るわっ!

なんてすばらしいの!

さあ、これで私たちを邪魔するものは誰も居ない!!

私と一緒に彼らの元で私たちと同じ境遇の人たちの世界を

崩壊させてしまいましょう!!

さあ!!


そう叫んだ彼女の瞳は茫然と自分を見つめる少女たちの

一人へと注がれていた・・・

たった今世界崩壊の最後のピースを埋めた少女の瞳は

狂気的に一人の少女しか映していなかった。




それは八月中旬、その少女は名前を影宮雪かげみやゆきという。

その日はとても暑い夏の日であり朝のニュースでは水分補給と熱中症への

注意が促されていた。

そんな日にも限らず影宮は何故か夏の冒険に出かけようと意気込んではみたものの

公園の木陰のベンチで暑さに唸っている始末だった。


「・・・・今年も私は夏に屈してしまった」


そう呻きながら影宮は麦わら帽子を深くかぶりつつ自身の荷物に目を向ける

スマホに財布、食料として持ってきたバランス栄養食三つに

それらを収納する肩さげ鞄が影宮の今日の荷物だった。

しかしその中で一つなくてはならないものが無かった。

そう である

意気揚々と家を出た影宮は自分が飲み物を忘れたことに一切気づくことなく

この公園まで来てそのまま暑さにより動けずにいたのだ。


「まさかこの私がこんな暑い日に必須級の飲み物を忘れてしまうとは」

そう呟きつつちらりと視界に端にある水飲み場へと目を向ける影宮だったが

その目に映るのは『現在節水中』と書かれた札だった。

飲み物を忘れたという事実に気づき祈る気持ちでノズルをひねった

影宮は既に一切の水が出ないという現実に打ちひしがれてもいた。

誰か人を呼ぼうにもスマホは夏の暑さのせいで早々にバッテリーを消耗しきっていた


「私の短い人生もここで終わりか・・・」

半ばというよりほぼ諦めたムードになり影宮がぐったりしていると

唐突に影が落ちた。


「これ、そこの少女こんな所に居ては干からびるぞ」


随分と高齢な口調が聞こえてきた。

しかし気のせいだろうかその声は明らかに

女性の声のように影宮には聞こえる。


「ついには暑さで幻聴が・・・・」


うなだれたままの姿勢で影宮がそう呟くと同時に呆れたようなため息と共に

影宮の帽子が持ち上げられ一気に冷たい感覚が押し寄せてきた。


「うわっ・・・冷たい」


そんな声と共に徐々に熱を持った体が冷えていく感覚と共に

冷えた水を頭からかけられているという事実の認識が

後からやってくる。

思わず顔を上げた影宮の前にいたのは

心配そうに影宮を見下ろす切れ目の少女だった。

夏だというのに黒いセーラー服に身を包んだその少女はただ一言

影宮に質問を投げかけた。


「世界の御柱たる四人の巫女を探し取るんじゃが何か知らんかえ?」


影宮の思考が瞬時に疑問で塗りつぶされ同時にその場にはセミの喧騒が

響き渡るのだった。

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