聲寄せ少女の東京怪異物語
うみのまぐろ
聲寄せ少女は死者を唄う
はじめに
この物語は、死者の言葉を軽やかに唄う、一人の少女と、その、仲間たちの物語だ。
死者の言葉は、すでにこの世界から去ってしまった、かつてこの世界を生きた人たちが、今この世界に生きる人々へ残した優しさを込めた暗号のようなもの。この世界に降り注ぐ、太陽からの金の光や、月の端からの銀の光や、花の色や、草の音や、そして吹き抜ける風にその温度を溶かす夢のような言葉の数々。
私は、その言葉の数々を、一つの手帳にしたためて、この美術文芸部の、書架の奥に隠すことにした。この物語を探し出す、必要とする誰かにだけ、見つかるように祈りを込めて。その誰かはきっと、この物語にしたためられた死者の言葉を、必要としていると思うから。
死者の言葉を語ることはできるのは、生きている私たちだけだ。死者の言葉は時に曲解されて、利用されて、本当に伝えたかったことなんて、覆い隠されてしまうかもしれない。それは、言葉の数が増えれば増えるほど、そう。
でも、本当に伝えたい人にだけでも、彼女たちの本当の聲が届いたのなら、きっと死者は笑ってくれるだろう。
だから、この物語は、死者が笑い、そして生きている私たちが笑うための、ひとときの、奇跡のような邂逅であると言っていい。そして、この物語を読んだあなたは、死者の言葉をその背に受けて、きっと振り向かず、流れるように手を振って、光溢れる明日へ、そっと踏み出して欲しいと思うのだ。
そんな思いを込めて、書架の片隅に、この物語を残します。願わくば、この物語を読んだあなたの前途に、金の雫が散り、銀の雫が降り、花びらがあふれ、そしてどこからかあなたの心を攫う、温かな風が吹きますように。
――自動筆記者 柳沢ことね
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