未来(2023/6/18)

「あなたの未来、みてあげようか?」

 ファミレスのボックス席で、向かい合った親友が沈黙を破った。


「なにそれ……? 何かの占い?」

 私は腫れぼったいまぶたをこすりながら問いかける。


 親友は、ピエロのような奇妙な笑みを浮かべながらうなずいた。

 おどけているようにも、照れ隠しのようにも見える、本当に奇妙な笑みだった。


「でも、占いなんて、できたっけ?」

 私の問いに、親友は「まぁ、まぁ」などと言いながら、私の手を取った。

 どうやら手相占いらしい。


「なるほど、なるほど」

 親友は私の手のひらを見ながら、芝居がかった口調で呟く。

「あなたに辛い別れが訪れたのですね。一晩中、泣いてしまうほどに」


「そりゃ、彼氏と昨日別れたからね。さっきそういう話をしたでしょ」

 私はうんざりとした口調で言う。

「からかってるなら、やめてよね。みじめになるから」


「でも、あなたは一人じゃない」

 親友は突然、凛とした声で告げた。

 そして、笑みを消し、真面目な顔で私の手を握って語る。

「あなたから離れてしまった人もいるけど、あなたの傍にも、すでに誰かがちゃんと居るものです。そして、あなたの隣に寄り添う人と、新たに出会う可能性もちゃんとあるのです。それを、忘れないでください」


 親友からのお告げに、私はすっかり毒気を抜かれた。

 私はほどんと無意識にコクリとうなずき「ありがとう」とつぶやいた。


 親友は例のピエロみたいな笑みを再び浮かべると、陽気な声で最後のお告げをした。

「ちなみに、今日のラッキーメニューは、ジャンボパフェです。親友とシェアして食べるとなおラッキーでしょう」


「じゃあ、お告げ通りにしようかな」

 私は苦笑いをしながらテーブルの上の注文ボタンを押した。


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