スイッチ
華川とうふ
あついたたみのうえ
子供の頃の記憶がときどき鮮明によみがえることがある。
法事で親戚が集まった家。
夏独特の蝉の声。
畳みのにおい。
普段は使われない大人数の客が来たとき用の食器の埃。
テレビも自由に見せてもらえないで、私はいつの間にか畳の上でうつらうつらしていた。
夢だか現実だかわからない。
そんな中、ふと従妹と叔父の声が聞こえた。
「怖い話をしてあげよう」
叔父のいつもと変わらないふざけた口調に『怖い話』という単語がミスマッチで思わず私はそっと耳をそばだてた。
「昔ね、お父さんの会社の同僚の人がとても神経質でね。そう単身赴任をしてたんだけど。単身赴任先から家に帰るときは、電気を消したかとかガスを占めたかとか鍵をかけたかすべて確認するようにひとつひとつスマホで写真をとっていたんだけど。ある日、単身赴任先のアパートに帰ると消したはずのテレビがついていたんだよね……」
従妹がどう反応したかさえも覚えていないし、この記憶がいつのことだったかさえもあいまいだ。
なのに、叔父がしゃべる声だけはやたらと鮮明で一言一句間違っていない自信がある。
大人になった今、考えてみればこれが心霊現象として怖いのではないのが分かる。
単身赴任先のアパートがちゃちくて、おそらく隣接した部屋のリモコンがうっかり作動したのだろう。
よく、笑い話にあるじゃないか。
あまりにもアパートの壁が薄くて、隣の隣の部屋の音のせいで隣人に怒られるという都市伝説が。
だから、テレビがついていたことくらい何にも怖くないって。
さて、君はどうしてこの部屋がこんなに暑いのか聞きたいみたいだね。
そう、外も暑いけれど、この部屋のエアコンはどうやら暖房になっているようだ。
私が帰省しているうちに誰かが暖房をつけたらしい。
これはリモコンの誤作動なのか、心霊現象なのか、だれか解明してほしい。
スイッチ 華川とうふ @hayakawa5
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