レイジ・オブ・ソード 第25話 空中闘技場の死闘… 決戦!虚光騎士イルミナ! 壮絶たる決着!

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第25話 


 大陸の遥か外海に浮かぶ星機城オルキア。

 かつて全能神に作られたといわれるその巨大遺跡の第8階層、白い石によって作られた決闘場で、今二人の騎士の戦いの火蓋が切って落とされた!


 裂帛の気合とともに白い鎧の騎士、虚光騎士イルミナは剣を振り下ろす。凄まじい速度の乗った一撃をを黒い鎧の騎士、黒鍛騎士ブルートは横に構えた剣で受け止める。衝撃が闘技場をゆらし、相殺しきれなかった斬撃が闘技場を切り裂く。


 振り下ろしを弾かれて体を崩したイルミナを返す刃で肩口を切り裂き仕留めようとするブルート!しかしそれはイルミナの罠だ。一歩踏み込んで間合いを殺しノイアの胸を貫こうとするイルミナ。しかもブルートもさるもの、僅かに体を逸らすとともに肩を後ろに引いて致命の間合いをずらそうとする…!


 金属がぶつかる鋭く不快な音が響いた。あたりに鮮血が舞い、二人の騎士が飛び退った!


 ダメージが大きいのは…ブルートだ!鎧の胸部分が砕け、血が滴っている。一方イルミナの肩鎧も砕けているが…その損傷には差が大きい。その上さらに白い鎧の傷は見る見るうちに塞がっていくのだ。


「驚いた。私と一合とはいえ互角に討ち合うとは…。女の陰で震えていた未熟者がよくぞここまで鍛えたものだ。魔剣の守り手、下らぬ徒手の技術に拘泥し死んだ防人の一族の生き残り…。怨念、執念というやつはこれほどのものか」

 

 白い鎧の騎士、イルミナの口からまるで氷のように冷たい声が響いた。嘲るような内容を話していながらもその言葉にはまるで感情が感じられない。まるで虫の生態を解説する研究者のように淡々と事実を紡ぐ、そんな口調だった。


「そうだ、俺は何もできない未熟者、ただのガキだった。貴様から妹を、大切な人を守ることができなかった。だが、そのガキが今日まで生き残り、貴様の仲間を滅ぼし…今貴様をも倒し、彼女を救い出す。貴様の大願も、皇帝の目指す新世界とやらも今日潰える」


 冷徹な白い騎士に対し、黒い騎士ブルートの様子は対象的だった。傷に怯む様子はなく、その目は爛々と燃える。その声は字の底から響くように低く、全身に目の前の敵に対する敵意が漲る。黒い魔剣に宿るは4つの光。あらゆる存在をその燃料にする魔剣に、今までの旅で出会った4つの力が宿っているのだ。


「滅せよ、魔剣騎士イルミナ!」


 ブルートの目に決意が漲る!これまでの旅路を、戦いの経験を、彼そのものを活力として彼は前に突き進む。この宿敵を倒し、攫われた彼女を救わなければならない。受けた傷は深い…イルミナの破壊光で受けた傷は彼の妹に託され、魔剣に刻まれた「癒やしリーン」の力を持ってしても治らない!その虚無の光は生命そのものを否定するのだ!長期戦は不利!

 

「抜かせ、貴様など所詮我らが大願の前では飛び回る羽虫に過ぎん!供物の聖女を救いにきたか?あの少女はもはや手遅れだとも!復讐?実にくだらん!」


 イルミナは吐き捨てた。その白き魔剣に虚無の光が満ちる。その魔剣の光によってブルートの幾人もの仲間を奪ってきたのだ。


「忌魚ゴルダや骸蝶イヴァロア、七破剣を破ったからなんだというのだ?もう半刻もすれば星辰は満ち、新たな理が世に刻まれる。貴様の執念も、魔剣に集めた力も全ては無意味だ。運命に逆らう愚を知るが良い!」


 言葉とともにイルミナの魔剣が輝く!


光あれ!フィアトルクス


 眩い閃光がイルミナの剣から放たれた!大理石が蒸発し破壊が一瞬で庭園の外壁まで到達する!閃光の後に残るのは半径3メートルほど円形の破壊痕と空気が焼かれて変質したツンとした匂いのみだ…。光線が掠め右半身を消しとばされた古代文明の石像が崩れて地面に転がった。


 これはイルミナの魔剣の力、滅びの熱光線だ!先ほどブルートの友亜竜カリアは異形の七破剣ジョーガを討ち取った隙を突かれこの光に撃ち抜かれた。彼女の決死の献身でブルートはこの城に辿り着くことができたのだ。ブルートはどこに…?まさか庭園の大理石の如く蒸発してしまったのか?


翼よ!ヴェルーダ


 違う、上だ!知っての通り、彼は今までの長い旅路で魔剣に4つの力を宿していた。その一つ、「風呼ぶ翼(ヴェルーダ)」の力の欠片でブルートは風に乗って飛び上がり、そのままイルミナに急降下して貫こうとする!その動きは鳥の如く軽く自由自在だ!


「甘い、光あれ!フィアトルクス!


 しかし、またもやイルミナの剣が輝いた!今度の光は先ほどとは違い爆発の如く周囲に放たれる。一瞬後に生み出されるのはイルミナを中心とした爆発的な圧力だ!その力はイルミナへの接近を拒否するのだ。


「ぐうっ!まだだ!」


 奇襲を迎撃されたブルートはなすすべなく撃ち落とされ地面に転がる。しかし、彼もさるもの、吹き飛ばされながらも剣を前に向ける。放つのは剣に滾る赤い稲妻だ!これは浮遊島で得た破壊の力!


破壊よヴィラギティー!」


「下らん!光あれ!フィアトルクス!


 ああ、しかしイルミナにはそれすら通用しない!剣の輝きとともに白騎士の全身に光が宿る。ブルートが輝く鎧に発射した稲妻は一方的に弾き返されてしまった。宿った光によってイルミナの鎧が遥かに強化されているのだ。


「これで終わりだ!」


 輝く剣が体勢を崩したブルートに閃光の如く振り下ろされた。防御すら間に合わずブルートは数十メートル吹き飛ばされ、闘技場を囲む壁に叩きつけられた!剣を受けたその足は歪に捻れている…。イルミナの一撃が掠っただけでこの有様だ。


 悲鳴すら上げられず、壁に背を預け倒れ伏すブルート。それを見たイルミナは、ブルートに白い光を蓄えた剣を向ける。先程の閃光で彼にトドメを刺そうというのだ。


「いくら策を練ろうと貴様はちっぽけな虫けらにすぎん。あの時の女のように、先ほど撃ち落としてやった貴様の竜のように、妹とやらのように。貴様もこの光で焼かれ無意味に死ぬが良い」


「ぐ、まだだ!」


 ブルートは歯を食いしばる。足が動かなくともその闘志は折れず!剣に緑の光が満ちた!


光あれ!フィアトルクス!


守りよ!ルガークト!


 ブルートの周囲を緑色の防壁が覆う。これは魔剣の力の一つ、旅の中で彼を幾度も助けてきた防御の力だ!その防壁は軋みながらも破壊光を受け止める…。しかしイルミナはさらに剣に力を滾らせた!


「無意味だ!光あれ!フィアトルクス!


 イルミナが放つ破壊光の威力が増す!ブルートは魔剣の力を振り絞り、光を受け止める…。しかしなんということだろうか、光の魔剣のあまりの熱に防壁は段々とひび割れ、蒸発していくではないか。ブルートが歯を食いしばり魔剣に力を込めるも、光の勢いは増すばかりだ!


「終わりだ、消えてなくなるがいい!」


 イルミナの気合い一閃、光の奔流がブルートを防御壁ごと包み込む!ブルートの防御壁に蜘蛛の巣の如く無数のヒビが入り…そして…砕けた!


「ぐぁぁぁぁ!」


 光が全てを飲み込み、そして爆発した。巨大な焦げ跡の中には倒れ伏す黒い鎧!全身からブスブスと煙をあげるブルートの姿だ!


「これで終わりか。虫らしい死に様だ」


 イルミナは嘲る。すると…驚いたことに黒焦げとなったブルートが動いた。


「貴様を…倒す…この命に…代えても…」


 全身から血を流しながら立ち上がろうとするブルート。しかしイルミナは何一つ焦りを見せない。そして…ブルートはそのまま倒れ伏した。イルミナはブルートがすでに限界であることを見抜いていたのだ。



 ブルートはピクリとも動かない。イルミナは彼にトドメを刺そうと剣に光を充填させていく…。ブルートはもう立ち上がることはできないのか?戦士は力尽き、全ては終わってしまうのか…?





(体が動かない…何が起きた…?)


 しんとした静寂の中でブルートは目をゆっくりと開いた。そこは無限に広がる温かい光に包まれた空間だった。腕や足が境目を無くし、世界そのものに溶けていくのを感じた。先程まで死闘をしていたとは思えない、無限の安らぎが彼を包んでいた。


(イルミナはどこに…?どうして俺は…)


 考えようとしても頭が働かない。虚無そのものが彼を手招きしていた。全ての終わりが近くにあるのに逆らうことはできなかった。


(帰らなくては…でも、どこに?)


 もがこうとするも手足は既に闇に溶けてしまっている。


(戦わなくては…でも、誰と?)


 宿敵の顔も、救わなくてはいけない彼女も、もはや思い出せない。


(立ち上がらなくては…でも、どうして?)


 手足の感覚はなく、上下すらわからない。


 溶けていく。全てが溶けて、一つになっていく。すべて…が…。


 






 声が、聞こえた。


 「……!」


 呼ぶ、声が聞こえた。闇の向こうに黒い塊が見える。ブルートはこれを知っている。戦いの中で彼を呪い導いた物、全ての思いを閉じ込める剣に刻まれた妄念、だが彼そのものである輝き…。


「………!…!」


 あの声はなんだ?今までも剣から声が響いてきたことがあった。かつての魔剣の担い手の知識が、経験が、彼を導いたことはあった。彼を呪ったことはあった。


 しかしこれは違う。この声を彼は知っている。この、懐かしい声を…。


 光の中でもがく。溶けた手を伸ばす。無くした足で立ち上がる。進む。進む。進む。ただ、前に…。


 そして…闇が彼を包んだ。


 全てが渾然として混沌としている。先程の虚無的な安らぎに満ちた空間とは違う、苛烈で、残酷な空洞。何度も何度も彼を呪った物。だが、彼にはこれが必要だった。


 ブルートが進むために、生きるために、立ち上がるために、この痛みこそが必要だったのだ。


「また、会ったな」


 そして、そこに彼女はいた。


 かつて、敗れたブルートを救った彼女。命を賭してイルミナを撤退させた騎士、ティーラ。誇り高き守護騎士はかつてのようにブルートに柔らかく微笑んだ。


「どうして、ここに…」


 ブルートは狼狽した。彼女が魔剣を握ったことはない。彼女がここにいるはずはないのだ。


「そう、不思議がることはない。私は、君の中の記憶だ。幻のようなものさ」


 彼女は柔らかく受けごたえする。その魔剣に宿る緑の光の如く穏やかに。


「だが…辛いことも、苦しいことも、君が全て覚えてくれていたから…何もかも捨てなかったから、私もここにいることができた。剣にほんの少し残った残滓を君が甦らせた。ここに君といること。それに価値があるんだ」


「ティーラ、さん…」


 ブルートの目から、涙が溢れた。ティーラは彼のそれをぬぐい、言葉を続ける。


「単純な話だ。君が生きる限り、残るものがある。私だけじゃないさ」


 ティーラが目を向けた先にいる…それは懐かしい人たちの姿。それは彼が失ってきた物。彼が捨てなかった物だ。


「さっさと片をつけろ…俺に勝った奴が、あの程度の相手に手間取ってるんじゃない」

かつて道を違え、壮絶な決着をつけた友がいる。


「大丈夫、あなたの手はきっと、どこまでも届く」


 自分をここまで連れてきてくれた友がいる。


「まったく…バカ弟子が。忘れるなよ。『心は閉なり、体は開なりじゃ』」


 自分に導きをくれた師がいる。


「お兄ちゃん…大丈夫だよ」


 あの日、行ってしまった、幼い…妹がいる。


 彼らだけではない。たくさんの影がブルートに寄り添っていた。それはかつてブルートが失ったと思っていた物だった。彼を救い、助けてきた縁だった。


「行こう」


「勝とう。あいつに、勝とう。一緒に…」


 ブルートは涙を拭い、拳を突き出す。そこに、いくつもの手のひらが重なり、そして…。



 イルミナの剣に光が満ちる。トドメの破壊光が今まさに発射されんとする。その、瞬間!


 ブルートが立ち上がった!その身には無限に等しいほどの闘志が漲る。そしてその目から流すのは…熱い、熱い涙だ!


「行くぞ…イルミナ!いや…空虚な騎士よ!」


「馬鹿な!立ち上がっただと!一体どんな手を…」


 この戦いが始まって初めて、イルミナの声の調子が乱れた!だがイルミナとて百戦錬磨、そう簡単に隙は生まれぬ!


「抜かせ、弱者が!貴様が何をしようと関係ない…貴様の魔剣では俺に対抗することはできん。今度こそ消えてなくなれ!」


 放たれようとする光をブルートは冷静に見つめていた。先程はこの技を恐れていた。直撃すれば終わりだと。しかし今は違う!ブルートは手を前に翳す!


魔剣から放たれた緑色の防壁がブルートの左手に纏っていく。脳裏に映るは誇り高き騎士の姿!そして緑光は円形の盾刃となった!


「行くぞ!守りよ!ルガークト!


「飛び道具か?しかし遅い!光あれ!フィアトルクス!


 放たれる光、緑の円盾刃はイルミナに向かって飛ぶ!イルミナもそれごとブルートを焼き払わんと破壊光を放つ!


 二つの光が激突し、あたりは衝撃と破壊音に包まれた!




 そして…イルミナの白い鎧が右の肩口から脇腹まで裂け、白い火花が飛び散った!イルミナが膝をつく!


ブルートは無事だ…なんと光による破壊痕は彼の届くその前で二筋に分かれている!一体何が起きたのだ?


「馬鹿な…。私の光を切っただと!?」


 驚愕に目を見開くイルミナ。彼は見ていた。破壊光を正面から切り裂き、突破した円刃を!ブルートは先程の衝突で守りの力は破壊光に僅かの間耐えられることを見切っていた。それを攻撃に転用したのだ。


「どうした…?それで終わりか?」


 ブルートは油断なく構えた!イルミナは激昂する!


「ふざけるな…今のような小細工、繰り返せる物ならして見るがいい!貴様はどうせもう動け…」


 イルミナの表情が驚愕に歪む。その目に映るのは…紫の光。ブルートの全身を覆う執念の鎧に赤と青の光が入り混じりその体を覆っているのだ。そして…ブルートが走る!目指すはイルミナだ!


「私の光を受けてなぜ走れる?どこからその力を!?」


「奪い続ける貴様には…永遠にわからぬ!」


ブルートは走る。イルミナに向かいひた走る。なぜ彼はその肉体に力を取り戻せたのだ?


確かに破壊光で受けた損傷は再生できない。だからこそ、ブルートは赤い稲妻、破壊の力で自らを焼いたのだ!破壊光で受けた傷は既になく…残ったのは稲妻による損傷、故に回復可能!繋ぎ直した足でブルートは一瞬の内に間合いを詰めた!


「下らん!貴様の執念など…叩き潰してくれる!光あれ!フィアトルクス!


 イルミナが構え、またも先程と同じ…いやそれ以上の爆発的な圧力が放たれた!全方向への爆発的衝撃はまさしく分厚い城壁の如し!またもブルートはこの一撃に吹き飛ばされてしまうのか?


「技を借りるぞ!カロン!」


 これは…剣を構えて前方に突きかかったブルートの体が高速で回転する。これは宿命の敵であり友、カロンの奥義、螺旋剣だ!かつてカロンはこの技でブルートの守りを貫いた!放たれた螺旋は更に、乗せた翼の力で加速する!


  

「ぐああ!」


 螺旋が城壁を穿った!放たれた一撃はイルミナの肩口を抉る。そしてまた…この日三度目の形として二人の騎士は一足一頭の間合いに迫った。


「ならば…この刃をもって、切り裂いてくれる!今度こそ死ね!」


 イルミナの全身に光が滾った。先程掠っただけでブルートの肉体を鎧ごと破壊した一撃が来る!スローモーションで迫る絶対なる死に対して、ブルートはひどく冷静だった。


「破壊よ」


 剣に滾る稲妻は放つのでなく纏わせる。


「癒しよ」


 癒やしの力を高め、肉体を活性化させる。


「守りよ」


 全身の表面に守りを這わせ、支える。


「翼よ」


 風を刃に乗せ、加速させる!



 

 静かな…静かな音が響いた。


 イルミナの目がニヤリと笑った。そこに映ったのは吹き飛ばされた黒い魔剣。くるくると回転しながら弾かれたブルートの唯一の武器だ。己の勝利を確信してイルミナは刃を持ち上げ…持ち上げ…持ち…。


 刃はどこだ?


 イルミナは中程からへし折れ、砕けた己の魔剣を呆然と見つめた。そして…彼の鎧の先程切り裂かれた裂け目がさらに大きく広がり、内側から白い光が炸裂した。

 

「馬鹿な…馬鹿な!私の、魔剣が砕かれ…!」


 全身に広がっていく破壊を必死で押さえ込もうとしながらイルミナは呻く。人としての肉体を捨てたイルミナにとって魔剣は己の心臓も同じ。その破壊はイルミナに致命的なダメージを与えていた。


 しかし…


「調子に乗るな!小僧!」


 尚もイルミナは立ち上がり、へし折れた剣をブルートに突き刺そうとする!


「武器を失ったのは貴様も同じ…いや、今の貴様は魔剣との接続を失ったただのガキだ!剣を砕かれようとも…人間一人殺すのは容易い!我が魔剣は…肉体は不滅なのだ!」


 彼の言う通り、全力を再生に回すことでイルミナは致命傷を食い止めていた。このまま魔剣を再生することも可能だろう。イルミナの言は正しい。


 しかし、ブルートに焦りはなかった。一足一刀の間合いよりさらに近く…完全なる密着状態で、彼は静かに構えた。たとえ離れようとも…武器はそこにある。


「何を…!」


『火龍』


 ほんの一瞬。その一瞬に…イルミナの鎧に新たな傷が刻まれた。それは素手による斬撃…。防人が最初に学ぶ技である。


「馬鹿…な…」


 イルミナは当然この技を知っている。かつて学び、無価値と捨てた技。所詮魔剣に通用する余地はない手品でしかない。


 しかしその刃はイルミナの知るそれより遥かに鋭かった。ブルートの歩んできた者が、憧れた背中がその一撃には刻まれているのだ。


「貴様!」


『颶風』


 剣を振り下ろそうとするイルミナの鳩尾に神速の回し蹴りがめり込む。崩れたバランスにより攻撃はあらぬ方向に向かう!それはかつて誰よりも速さを誇った男のごとく!


「この私が…!」


『犀林』


 やぶれかぶれで放った突きが弾かれた。円の守りに弾かれ、イルミナは床に流れのまま叩きつけられる!


『山響』


 そして生まれた最大の隙に…渾身の衝撃が叩き込まれた!


「まだだ…この俺を…」


 しかしなんという耐久力か!イルミナは耐える!この一連の攻撃を耐え切る!その鎧は魔剣騎士の纏う中でも最大の強度を誇るのだ!


「所詮は魔剣持たぬ人間!この程度の技、、何百発撃ち込まれようと…」


 しかしブルートの技はそれで終わりではない。嵐のごとき連続攻撃は尽きぬようにイルミナに叩き込まれ続ける!


『火龍』『颶風』『犀林』『山響』


「な…!」


『火龍』『犀林』『山響』『颶風』『山響』『犀林』『火龍』『火龍』『颶風』

『山響』『犀林』『颶風』『颶風』『山響』『颶風』…


(なんだ、この技は…終わらない!こんな技は俺の知る限り防人には…)


 しかもそれどころではない。放てば放つほど技の継ぎ目は消え、技を繰り出す速度、その回転数が早くなり、型も無形に溶けていく!音を超え、光すら上回る、その速度は…まさに神域!


「ぐあああ!」


 連撃の果て、悲鳴とともに吹き飛ばされるイルミナ!そこにブルートは一瞬にして迫る!イルミナは見た…あまりにも静かで、そして確固たる…彼の殺意を!


「ふざけるな!貴様如きに!死ね!ブルート!」


 イルミナの最後の一太刀を…ブルートは静かに弾いた。そして極限まで圧縮された時の中、イルミナは確かにその声を聞いた。


「滅せよ、魔剣」


 放たれた技にはもはや区別はない!完全に同化した一瞬の一撃は全くの同時に、イルミナに打ち込まれた!


『風林火山』


「貴様…!よくも!ブルート!」


 イルミナが吹き飛ばされる!その身に刻まれた亀裂から光が溢れる!


「ブルート!ブルート!おのれ…」


 亀裂同士は繋がり、イルミナの全身を覆う!もはやイルミナの全身は区別できないほど光に覆われている!ブルートは息をつき…ゆっくりとイルミナに背を向けた。


「ブルートォォォ!!!!」


 轟音とともにイルミナの肉体が爆発した。体内に満ちた魔剣の力が肉体の崩壊に耐えられなくなったのだ。かつて討ち果たしてきた他の魔剣騎士と同じように、暴虐を謳った七破剣と同じようにイルミナもまた、ここに滅んだ。魔剣に肉体を捧げた…魔剣騎士の最期だ。


「勝った…」


 ブルートはそれを確認して膝をついた。恐ろしい相手だった。己の全てをぶつけて、やっと掴み取った幸運の上での勝利だった。しかも戦いは終わりではない。皇帝ケサルは未だ健在だ。奴は聖女イスタを攫い、彼女をその邪悪な儀式の供物として捧げることで世界を滅ぼすつもりなのだ。ブルートは満身創痍。絶望的な戦いだ。


 それでも…彼は歯を食いしばり立ち上がり剣を拾った。いかなる傷を負おうとも、彼の中にはまだ残っている物がある。立ち向かう理由がある。進む意味がある。それがある限り、彼は戦うのだ。


 そして彼は…最後の戦いに挑む。





 次回 最終回 「そして光は全に至る」


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