いよが産んだ神殺し

快魅琥珀

第0話 『親友』の君へ

 空にある何かを見つめていた時、それがどうしたと訊いたことがあった。


「あの星とあの星、天の川を挟んで光ってるあれ、何?」


 黒髪の少年は、振り返って無邪気に訊いてきた。質問したのはこっちなんだけどなと思いながら、訊かれた側の茶髪の少年は答えた。


「アルタイルとベガ、織姫と彦星ってやつだよ」


「あれだあれ、年に一度だけ会えるみたいなやつ?」


「そう。ちょうど今日だな」


 この日は7月7日。小さな小山のある公園で、二人の少年が星空を見上げている。珍しくはっきりと見える天の川に惹かれ、しばらく目を離さなかった。


「また、来年さ」


「うん?」


 黒髪の少年は、茶髪の少年へ恥ずかしそうに目を向けて、


「来年も、一緒に見よ。あの星を。二つの星をさ」


「いつだって見てやるよ星くらい。なんでそんなかしこまってんのさ」


「だよね!うちってば変なの!」


 キャッキャと笑い声を上げて、黒髪の少年は笑っていた。


 ずっとずっと、もうこの先笑えないから、今のうちに笑っとこうってくらいに笑っていた。


 その意味が、ようやく分かった気がする。


快斗かいと君!」


 白い光が晴れて、目を開けた時、その視線の先にはあの黒髪の少年がいる。


 名前はなんだったか、頭の中を掻き回すように粗探ししても分からない。


 だが、それも今だけ──いや、今までだけだ。

これからは違う、また、もとに戻る。そのためにここまで生きてきた。


「大丈夫!?」


 心配する声が聞こえる。聞き慣れた声に手で応じ、立ち上がる。


「あぁ───行くぞ」


 手に握る得物を振り上げ、最後の戦いに、再戦に心を踊らせる。


「今回は勝たせてもらうからな」


 人の形をした『親友』へ、天野快斗あまのかいとは笑いかけた。


~~~~~~~~~~~~~~


 少し前のこと、世界を揺るがす戦いがあった。


 たった一人の悪魔が起こした復讐が、色んな神と人間を巻き込んで、土を沢山引き連れた木の根っこみたいに世界をひっくり返した。


 多大な影響を与え、かき混ぜ、破壊した少年は、最後の最後で勝負に敗れ、その一生に幕を閉じた。


 だが、その意思を終わらせることは、望まれていなかった。


 他でもない、かの少年が伸ばしたであろう、世界をひっくり返した根っこが。


「終わらせない」


 ある程度見えるようになった世界を俯瞰して、髪の長い美女は爪を噛んだ。


「私達は、神を殺す」


 血が染み出した唇が、物騒な言葉を紡いだ。

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