第8話 喪失
やっと学校が終わった。
病み上がりの体を引きずって何とか終えることができた。
本当にしんどい。
「でも、なんで海星はあんなににやにやしてたんだろう?」
今日の海星はなんだかおかしかった。
授業中もずっとニヤニヤしてたし、お昼もどこかに行っていたし。
海星、待っててね。絶対に私が助けてあげるから。
「早くいかないと」
海星は帰りのHRが終わるとすぐに教室を出て行ってしまった。
もしかしたら泥棒猫と一緒に帰るのかもしれない。
だとしたら今日海星の後をつけたら探すまでもなく泥棒猫を見つけることができるだろう。
「ちょっと茜、昨日大丈夫だったの?」
「ああ、うん。ごめん春奈今日は用事があるからもう帰るね」
「あ!ちょっと、」
今は春奈に構っている暇はない。
早く海星を見つけて泥棒猫から奪い返さないと。
私は先ほどまでしんどいと思っていた体をフルで動かして海星を探し始めた。
◇
「はぁはぁ。やっと見つけた」
私は昇降口の前で一人立っている海星を見つけた。
どうやら待ち合わせをしているらしい。
声をかけようか迷ったけど今声を掛けたら肝心の泥棒猫の正体を見破れなくなるからとりあえずは我慢した。
「待ちましたか?」
「待ってないよ。じゃあ、行こうか」
「はい」
少しすると海星の隣に女がやってきていた。
「あれが泥棒猫!」
見つけた瞬間二人は手をつないで歩き始めていた。
それを見て周りから歓声や悲鳴が聞こえてきたけどそんなのはどうでもいい。
「ねえ、海星の彼女って藤音 紫苑なの!?」
まさか、私から海星を奪った泥棒猫がこの学校の生徒会長だなんて。
信じられない。
なんで海星を私から奪ってきたの?
完全無欠なんだから別に誰でもいいじゃん。
意味わかんない。
「なんだいきなり。関わらないでくれって何回も言っているはずだが?」
「うるさい!海星を返してよこの泥棒猫!」
許せない。
絶対にユルサナイ。
海星は私のものなのに海星をたぶらかして。
私から一番大切なものを奪った。
「泥棒猫ってお前何言ってるんだよ。お前が僕を捨てたんだ。紫苑はそんな僕を助けてくれただけだ。お前がそんな暴言を言う資格はない。わかったらどこかに行ってくれ。そして僕と紫苑に関わらないでくれよ。」
「いやだ!あれは冗談だったの。だからもう一回私と付き合ってよ。」
そう、いつもの冗談だったのに。
なんで真に受けちゃうの?
私が海星以外を選ぶわけないのになんでそんな簡単なことが分からないの?
「それは無理ですよ。海星はもう私の彼氏ですから。」
いきなり泥棒猫が口を挟んできた。
「外野は黙ってて!」
「外野ではありません。私は海星の彼女なので当事者ですよ。私は海星を手放す気はありませんよ?私は彼が大好きですから。」
「そんなのあなたが決めることじゃないでしょ!誰と付き合うかは海星が決めることよ!」
海星、今なら周囲の目もある。
だから、そんな女に気を使わなくていいんだよ。
私の所に戻ってきてよ。
「そうだな。誰と付き合うか決めるのは僕だ。だから茜と付き合う気なんて微塵もないし僕も紫苑と別れるつもりなんて毛頭ない。だから金輪際関わらないでくれ。」
「なんでそんなこと言うのよ、、私は本当に貴方のことが、」
大好きなのに。
一番大切で私の唯一無二なのに。
「海星行こう。」
「うん。」
二人は私を見ることなく立ち去って行った。
「う、うああああああああああああ」
周りに人が集まってきているけどそんなことが気にならないくらいに悲しかった。
海星に完全に拒絶された。
その事実がたまらなく悲しかった。
身体の半分以上がごっそりなくなったような感覚だ。
この後、家に帰っていたけどそれまでどう帰ったのか記憶が全くない。
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