ビイじいさんについて

春雷

第1話

 僕の実の祖父であるビイじいさんは、少し変わっている。

 見た目は普通の、アフロの八十才のおじいさんなのだが、左肩に「右肩」というタトゥーが入っていて、右肩には「左こめかみ」というタトゥー、左頬に「炒飯」というタトゥー、首に「成人男性」というタトゥーがそれぞれ入っている。それに加えて、右くるぶしにうめぼしのタトゥーも入っている。

 いったい何を思って、そんなタトゥーを入れたのか、理解できない。

 ビイじいさんはいつも机に向かっていて、ジャポニカ学習帳に何かを書き続けている。何を書いているのか、と一度覗き込んだことがある。

 ピカチュウとハイチュウという文字が、交互に書かれていた。しかもフォントを変えてずらーっとノートいっぱいに。明朝体やゴシック体のみならず、名前のわからないフォントまで使って、ノートにピカチュウとハイチュウを交互に書き続けている。あまりにもびっしり書かれているから、初めて見た時、僕は悲鳴を上げてしまった。

 まだまだ、おかしなことがある。

 ビイじいさんは西日本のことを、「紫式部」と呼ぶ。これに関してはまったくわからない。どうしてそう呼ぶのかと聞いても、モニョモニョと口を動かして終わりだ。東日本のことは東日本と呼ぶのに、どうして西日本だけ紫式部なのか。もう全然意味がわからない。

 それに、ビイじいさんは冷蔵庫を三つ持っていて、3DSをいつも冷やしている。冷やす意味があるのか。ビイじいさんは外出時必ず3DSを持ち歩いて、すれ違い通信をやっている。冷んやりした3DSを持って、すれ違い通信をやっているのだ。七十五年前に生き別れた弟と再会するために、すれ違い通信をしているそうだ。そんなんで見つかるわけねえだろ。

 祖母は常識人なのに、どうしてビイじいさんはこんなに変な人なのか。昔からそうなのだろうか。僕にはよくわからない。

 ビイじいさんは少し前に、セグウェイで日本一周すると行って出かけた。今は紫式部にいるらしい。そして、弟とすれ違い通信で再会できたそうだ。弟はけんけんぱで世界一周していたという。弟も変人なんだな。

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