第6話 夏の嫌われ者

 午前5時のアラームが鳴った。


 リズミカルなアラームに目を覚ました私は、そっと瞼を開けた。目の前には輝くスマホの画面――と、彼女がいた。

 どうやらまだ夢の世界にいるらしい。いつもなら起こしているが、今日は休日。私も寝よう、と再び意識が遠のいていたその時。


「……!」


 私は息を呑んだ。

 僅かに聞こえてくる。悪魔の羽音が。

 濁った音がにじり寄るかのようにやってくる。まるで私の憎悪を嘲笑うかのようなあのモスキート音が……!


 すぐさま頭を布団で隠した。

 どうやら奇襲をかけられたようだ。どこから入って来たのかは分からないが、今はそんな話をしている場合じゃない。外にはヤツがいる。もし頭を出そうものなら――あぁ、考えるだけでも恐ろしい。


 このまま耐え忍ぶか? もしくは勇気を出して攻撃を仕掛けるか?

 どちらにせよ、ヤツを早く仕留めなければここからは出られない。


 その時、私はある大切な人を忘れていたことに気が付いた。


 私はなんて馬鹿なんだ! まだ外にはがいるじゃないか!!


 慌てていたので忘れていた。こうしちゃいられない。

 私は布団の隙間から彼女を覗いた。どうか無事でいておくれ。


 しかし、最悪な事が既に起きていた。


 安らかに寝息を立てていた彼女は、苦しそうな表情を浮かべ逃げようと抗う。そんな彼女の背中に張り付く悪魔。彼女の綺麗な背中に突き立つ黒い針。


 私は激怒した。


 振り上げた腕に力を込めて、全力で振り下ろす。柔らかいシーツからパンッ、と曇った音が部屋中に響き渡る。


 ふと手のひらを見ると、それは死んでいた。

 細い手足はありえない方向へ曲がって、身体そのものは綺麗にぺちゃんこになっていて、お腹からは赤黒い血が漏れ出ている。


 私はひとまずティッシュで手の付いたものを拭き取り、二度寝することにした。


 さぁ、次はいつ起きようか?

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