第5話 爆弾発言はお腹いっぱいです

 サラッと爆弾発言した!? 今、重大なこと言ったわよね!?

 どなたか場内に諸々のツッコミと、混乱した場を纏められる方はおりませんか!?


「黙って聞いていれば──」


 法王の傍にいた聖騎士と、帝国の騎士の一人が動こうとしたその瞬間、漆黒の雷がその場を制した。「ぎゃ」と声をあげる騎士たちにルーファは鋭く睨む。


「それ以上、僕のセレナに近づかないでほしいな」

「(こんなに怒って誰かを睨みつける姿も……見たことがない。でも何に怒っているの?)ルーファ……貴方は」


「もう少しこのままで」と耳元で囁く。甘くて蕩けるような声音は、反則じゃないですかね!?

 パリッとルーファの指先から漆黒の稲妻が生じたのを見た。それは巨大な魔法陣を描く。幾つにも重なった魔法陣の中心にいるのは、私とルーファだけだ。

 いつの間に高度な魔法まで使えるようになったの!? 本当にあの泣き虫ルーファ?

 そしてなにを考えているのか全くわからない! いや、昔から考えていることはわからなかったけれど!


「王国、帝国、法王国。特に法王国と帝国は遠路はるばる来て頂いたが、お前たちにセレナ渡さない。破滅カタストロフ黒竜神ニゲルドラコと契約し魔王となったルシュファがここに宣言する」

「ま」

「魔王だと!?」

「魔王は滅んだはずだぞ!」

「この世界を再び渾沌を齎し、神々の終末を繰り返すというのか?!?」


 阿鼻叫喚の嵐だった。あまりにも情報量が多すぎて困惑してしまう。ルーファが魔王? 確かに彼は悪魔族の末裔だけれど、どうして魔王? 破滅カタストロフ黒竜神ニゲルドラコって二年前に討伐命令が出たって……。

 魔王宣言に法王国と帝国の雰囲気が変わった。一触即発とでもいうような空気の中、聖騎士の一人が一歩前に出た。


「なんと無礼な! 今宵、次期王妃になる筈だったセレナーデ嬢が婚約破棄されると聴き及び『それならば』と、法王様は求婚に訪れたのだぞ! これは王太子殿からも承諾を得ている!」


 聖騎士の一人が高らかに正当性を論じているが、色々とおかしい。


「初耳です……」

「だよね。先ほど王太子は愚かにも婚約契約の条件である『婚約解消後は側室及び王家と関わりを一切絶つ』というのも忘れていたようだし」

「うん……(なんで知っているの!? 怖っ!)」

「そもそも今後、セレナに王家は接触できない条件で契約を結んでいる。王家は王家でその取り決めた事実を隠蔽、ねつ造、強権を駆使してなかったことにするつもりだった。それなのに誰が法王に、そんな愚かな書状をよこしたのだろうな。あー、もしかして自作自演だったのかな?」


 ルーファさん!? めちゃくちゃ煽っていらっしゃる!? 昔は素直で優しい子だったのに、神経を逆撫でする能力まで身につけて……。

 ざわつく会場内。高らかに宣言した聖騎士様は、怒りで甲冑を震わせていた。タコのように真っ赤な顔になっているのが想像できる。


「それに僕の記憶違いでなければ、法王は五年ごとに妃を娶っていますよね? 毎回五年ピッタリというのは……セレナも気になるだろう?」

「それは確かに変ね(初耳! 法王って結婚していたの!? 隣国とはいえ……そういえば式典の時も奥様らしき人を見たことがないわ。病気? それとも……)」


 周囲の貴族たちもざわつくものの、法王は黙ったままだ。聖騎士たちはブルブルと怒りで甲冑が震える音が聞こえてくる。これ以上の刺激は危険じゃ?


「法王。いかに美しい金糸雀がいたとしても、僕の大切な人をこれ以上、政治の道具にも、生贄に差し出すつもりはない」


 パワーワードが飛び交っているのだけれど!? 

 大切な人……キュン。じゃなくて政治の道具!? いやいや生贄って……豊穣の供物を奉納するとかあるけど、そういえば五年に一度、《神々の花嫁》という役割で演舞をする踊り子がいたような? その子たちって、舞を奉納するだけで生贄って訳じゃないわよね!?


「そういえば五年に一度と言えば、《神々の花嫁》で舞う踊り子がいたけれど、毎回行方不明になっているというのはどう弁明するんだい?」


 実は生贄でしたってオチ!? 怖い!

 隣国の信仰だから詳しく知らないのだけど、もしかして私生贄候補に入っていた? え、なにそれ怖すぎる! そんな噂私は知らない……。ううん、意図的に耳入れないように仕組んでいた?

 よく考えれば王妃教育で、他国の外交だけは免除されていた……。それは情報が私に届くと厄介だと思われていた?


「ハハハッ! いいね、暴露大会。法王はそうかもしれないが、俺は自分の意思で趣味友達が婚約破棄されると聞いたから、掻っ攫いに来ただけだぞ。まさかこんな状態になっているとは思わなかったが」


 クククッと喉を鳴らして、こんなカオスな状態でも、私の友人は楽しんでいるようだった。皇帝だって初耳なのだけれど、脱力してしまう。

 彼は私を心配して来てくれたのだから、友達思いの良い人だなと思っているとルーファは私の腰に手を回して、さらに密着!

 き、距離がバグってない!?


「そうやって窮地を救うフリをして、国に戦争を吹っかける手口は、些か古すぎるのではないですかね、皇帝陛下」

「……ほう?」


 あれ、あれれれ?

 なんでこの二人の間で火花が散っているの!? 初対面よね!? というか一気にパーティー会場の場が絶対零度並の寒さに! さ、さ、寒い!

 凍えてしまう……。

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