泣き虫の幼馴染がヤンデレ拗らせ魔王化したのって私のせい?~その溺愛は致死量では?~
あさぎかな@電子書籍/コミカライズ決定
第1話 遠い昔の約束
「ぐずっ……嫌だ。……セレナ」
「泣かないでルーファ、王命に逆らうのは愚策だと思うわ」
「うぐっ……」
雨の降る薔薇庭園は、いつもよりも花の香りが濃い。土砂降りの雨のおかげで私たちはガゼボから動かずにいられた。
雨が上がってしまったら、私はこの子の手を離さなければならないのだから。
ずっと泣いていた幼馴染は、私の手をギュッと掴んで離さない。サラサラの金髪、空色の美しい瞳で、肌もすべすべで白いし、可愛くて、まるで天使のよう。
王命で私と第一王子との婚約が決まったことを知った
感情を隠すことなく、ボロボロと涙を流す姿に胸が痛む。
「ルーファ」
「でも……ぐずっ、婚約したら、もう……僕と一緒にいれないのでしょ?」
「そんなことないわ。婚約に当たって条件を出すの。王太子が結婚するのは運命の番だけ。私はその繋ぎ。だから期限が来たら婚約解消してもらうの」
「ふえ」
元々王命の婚約はオトナの事情があった。だから私は前世の知識を駆使して、いくつか条件を親に
そもそも王太子は狼の亜人族で、番としか結婚しない種族だ。私が婚約するのは隣国の王女と婚約を阻止する政治的な理由に過ぎない。
前世の知識と記憶があるから、政略結婚の意図は理解できる。でも王妃なんてまったく興味はなかった。
「私だって窮屈で面倒事を押し付けられそうな王妃なんて嫌だわ」
「ほんとう?」
「うん。それに私の髪や目が悪魔っぽいっていう人たちは、キライだもの」
天使族なのに前世と同じ漆黒の髪に緋色の瞳は、どちらかというと小悪魔的な見た目だと思う。ルーファの髪と瞳が羨ましいわ。
天使族は守護と加護を与える一族で、金髪碧眼か青い瞳を持ち、肩から腰に掛けて対になる羽根を生やす。私は腰に小さな白い羽根があるのでれっきとした天使族だ。それでも私の容姿を馬鹿にする人たちは多い。
「じゃあコンハクカイショウしたら、セレナは僕のお嫁さんになってくれる?」
「まあ!」
目を潤ませて泣きはらした幼馴染にキュンとしてしまい、ギュッと抱きしめる。なんて可愛い子なのだろう。好き。
「私の婚約解消時に、ルーファの好きな人が変わってなければ……いいよ」
「セレナ!」
ボロボロと泣いていた青色の瞳が一瞬だけ、赤丹色に変わった──ように見えた。その後すぐにルシュファは私の腹部に引っ付いてしまったので、気のせいかもしれない。
「変わらない。変わるわけがない・・・・・・。僕が好きなのは、セレナだけだもの」
「ルーファ」
轟々と降り続いていた雨は止み、厚い雲から陽射しが零れ落ちた直後に見た七色の虹は、とても美しかった。
私とルシュファの約束。
「私もルーファが大好き」
「ほんとう?」
「本当よ」
「僕もセレナが好き、大好き、愛している」
可愛くて思わず頬にキスをしたら、ルーファも同じようにキスを返してくれた。
これから会うことは減ってしまうけれど、婚約解消するまで待っていてくれる。そう子供ながらに私は信じた。
ルーファに好かれているという自信もあったから。
でも、その約束は叶わなかった。
私が王宮で暮らすようになってから数年後、ルーファはすぐに軍に入隊したか。そして私が十一歳になった頃、ルーファは公爵令嬢のベアトリス様と婚約したと風の噂で聞こえてきた。
何でも公爵令嬢のお相手が事故で亡くなったため、新たな婚約者を探していたとか。王妃候補の声も上がったらしいが、ベアトリス様は早々にルーファと婚約してしまった。
少なからずショックで、淑女らしい笑みが保てなかった。
「……約束に縋っていたのは、私のほうだったのね」
王宮に入ってから、両親との面会も手紙もない。それはルーファも同じ。五年も音信不通なら、自然消滅してもしょうがないのに……。
豪華絢爛な装飾に彩られた王宮では白と黄金をふんだんに使って、芸術的な内装に溜息が漏れるだろう。けれど私にとっては堅牢な鳥籠にしか思えない。
厳しい王妃教育に何度も心が折れそうになった。それを支えていた柱がまた一つ、音を立てて崩れていく。
王宮で暮らして王妃になりたい気持ちが芽生えたことは一度もなかった。王太子──エドガルド様は今も国中を回って番探しに奔走している。
国王と王妃は、どこまでも王太子には甘い。
婚約解消まで後、五年。
この日付も条件にしている。ただ婚約解消しても、幼馴染は迎えに来ることはない。
悲しくなかったらと言ったら嘘だけれど、これ以上ルーファ……ううん、ルシュファの気持ちを縛っておくより、好きな人と幸せになってほしいわ。
五年後、婚約したら私は王妃候補筆頭から、何になっているのかしら?
番が見つかり婚約解消した後、私は王宮には残らない。側室あるいは何らかの形で関わることを禁じることを条件に、婚約を受け入れたのだ。
王都を離れて、……領地に戻ることは両親も望んでいないだろうし、どこか見知らぬ土地でのんびり暮らすのもいいかも。それとも国を出て旅行をするのも悪くないし……。このファンタスティックな異世界で、自由に生きてみたいわ。
腰から生えた真っ白な一対二翼を微かに広げて、空を見上げた。その日、どんよりとした空に虹が架かることはなかった。
その五年後、エドガルド様の番が見つかったのだが、それをキッカケに世界情勢がひっくり返るようなことが起こる。
あの可愛くて、泣き虫で、優しい彼が魔王になって戻ってくるなんて、誰が想像できただろうか!!
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