カブクワムシの観察日記
よし ひろし
1日目
夏の夜、打ち上げ花火の音がして、それを見ようとベランダの窓を開けた時、何かが部屋の中に飛び込んできた。飛ぶ音から虫、それも甲虫だろうと予想して、室内に目を向けた。
十センチほどの黒い塊が床の上で蠢いている。
「カブトムシか?」
近づいて見る。
「???」
一見オスのカブトムシのように見えたが、違う。頭の角以外にクワガタのオスに見られる大顎の様なもついていた。カブトムシとクワガタのハイブリットといった感じだ。
珍しい、それは間違いないので、捕まえようと何かないかと周囲を見て、飲みかけの焼酎のコップを見つけた。それを手に取り、中味を飲み干すと、それでその生き物を閉じ込めた。
そこで、去年同じように部屋に飛び込んできたコクワガタを飼育したときに使ったケースが、クローゼットの奥にあるのを思い出し、それを取り出してコップから移してやる。
「……カブトムシ、だよな?」
色は漆黒で、体つきは丸みがあり、モッコリしている。平たい感じのクワガタのそれではない。
頭部からもカブトムシに似た立派な角が一本伸びている。が、その先端はY字にわかれておらず、錐のように鋭くとがっていた。
カブトムシとの一番の違いは、手足の生える胸の両脇からノコギリクワガタの大顎の様なハサミ状のモノが生えていることだ。それらは固定した角ではなく、今は威嚇するように大きく左右に開いていた。外敵が来れば、あれを閉じてがっしりと挟み込むのだろう。
その他の部分は日本のカブトムシとよく似ているが、脚が少し頑丈そうな作りだ。また、角の付く頭部も、よく知るカブトムシよりもずいぶん大きく、目も大きい。どちらかというとハチかカミキリムシを思い起こさせる。
パッと見は、何かといえばカブトムシなのだが……
「外国のカブトムシかもな」
最近は色々な国の昆虫が輸入されれペットショップに売っているので、それが逃げ出したのかとも考えた。
「まあいいか。明日、餌とマット、登り木でも買ってくるか」
明日は日曜日で休日なのだが特に予定はなかったので、近所のホームセンターで飼育に必要そうなものをそろえることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます