君が生まれ変わっても
夏目 漱一郎
第1話 12月25日
12月25日……世間的にはクリスマスのこの日、僕は人生で一世一代のミッションを遂行する為にこの店に来ていた。
付き合い始めて三年目になる僕の恋人、
ずいぶん前から下見をして、ここでプロポーズをしようと思っていたレストラン。ちょっと洒落た佇まいのこの店は、クリスマスに予約を取るのは結構大変だったけど、こんな事は一生に何回も無いのだからと四六時中スマホ片手にしてやっと予約を取り付ける事に成功した。
約束の時間は午後8時だけど、一時間も早く来ちゃったよ。まあ、遅刻するよりは全然いいけど。 それにしても緊張する……まさか断られたりする事は無いと思うけど、実際に詩織からOKをもらうまでは何があるかわからない。それにもしOKをもらったところで、次は詩織のご両親にご挨拶にいかなきゃ。……まだまだ試練は続くなぁ~ なんだか喉が渇いたから水でももらおうか……でも、話の途中でトイレに行きたくなってもマズイし。ああ~~なんだかプレッシャーが……
もうすぐ約束の午後8時。僕はこれから先の詩織との夫婦生活の事を妄想してみる。ちょっと惚気過ぎかもしれないけれど、詩織との生活は僕にとってはまるで夢のよう。どこに行くのもいつでも二人寄り添って、やがては子供を授かって。男の子だろうか、それとも女の子だろうか?いっそのこと二人兄妹でもいいかな……そんな事を考えながらひとりでニヤニヤしてここに座っている僕は、周りの人達から見たらちょっと気持ち悪いかもしれない。
* * *
「申し訳ございませんお客様。こちら、あと20分を持ちまして『ラストオーダー』となります。ご注文がございましたら、お早めにお願い致します。」
「あっ、すみません。それじゃ、コーヒーを一つだけ……」
「かしこまりました」
もうすぐこの店の閉店の午後11時になる。約束は8時だから、もう今から詩織が来る事は無いだろう。こんな大事な日に詩織がドタキャンするなんて考えられないし、電話をかけても全く出る気配は無い。いったい何があったのか、明日確認してみるとして、今日はコーヒーを飲んだら帰ろう。こういう場合、料金ってどうなるんだろう?
「いえ、お客様。私共はコーヒーのご注文しか承っていませんので、料金はそれだけで十分でございます」
「いや、しかし二人分で予約したし三時間近くもここにいた訳ですから!」
「ご心配には及びませんよ。むしろお客様。今夜はお客様にとって特別な夜だと窺っております。相手のお方、いったいどうなさったのでしょうね」
反対に店長に心配されてしまった。本当に詩織はどうしちまったんだろう?
なんだかモヤモヤした気分を抱えたまま、僕は家路についた。アパートに戻り何気なくテレビをつけると、ちょうどその時流れていたニュースの内容に、僕は自分の耳を疑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます