【11話】ルシルとショッピング
フィスローグ家に嫁いでから三か月。
アリシアは今、ルシルと一緒に王都の街に来ている。
『君はここに来てから、ずっと屋敷の中にいるな。たまには気分転換にショッピングに行かないか?』
屋敷の外に出ないアリシアを気遣ってくれたルシルが、そう言って誘ってくれたのだ。
「わぁ……!」
多くの人でにぎわう王都の街並みに、感嘆の声を上げたアリシア。
紫色とはちみつ色のオッドアイが、キラキラと輝いている。
「ずいぶんと楽しそうだな」
「はい! 見たこともない景色が色々あって、とても新鮮な気分になれます!」
アリシアは生まれて初めて、王都の街を街を訪れた。
路上に賑わう人々の群れ。道端にずらっと並ぶ露店。
それらを見ているだけでも楽しい。
「それは良かった。……よし、では行こうか」
「はい!」
ルシルと二人横並びになって、王都の街を歩いていく。
「美男美女が歩いているぞ」
「夫婦かしら。とってもお似合いね」
アリシアとルシルを見た周囲の人たちからの感想が飛んでくる。
(私とルシル様がお似合い……!)
思わず顔がにやけてしまう。
こんな素敵な人とお似合いの夫婦と見られていることが嬉しかった。
「今日の君は本当に楽しそうだな」
「申し訳ございません! 私ったら、締まりのない顔をしてしまいました……」
バツが悪くて視線を下に向けると、ルシルは「気にするな」と言って、楽しそうな笑い声を上げた。
(夫婦って言われて、ルシル様はどう思っているのかしら。……きっと、どうも思っていないわよね)
自問自答したアリシアは、少し残念な気分を味わう。
二人が最初に向かったのは、アクセサリーショップだった。
店内には、美しいネックレスやイヤリングが多数飾られている。
中には、宝石が付いた高価なものまである。
「アリシア、気に入ったものはあるか?」
「……えっと、そうですね」
いきなりそんことを言われて困惑しながらも、ルシルの問いに答えるため、店内を見渡していくアリシア。
どれも素敵な商品ばかりで、目移りしてしまう。
そんなとき、アリシアの目にパッと留まったものがあった。
それは、ラピスラズリの付いているネックレスだった。
ネックレスのトップに飾られている、ラピスラズリの深い青。
ルシルの瞳にそっくりな深い青色が、とても素敵に思えたのだ。
「あのラピスラズリのネックレス、とても素敵です!」
「うむ、君に似合いそうだな。さっそく買うとしよう。俺からのプレゼントだ」
ルシルのその言葉に、アリシアは驚きの声を上げる。
購入してもらうなんていう話は聞いていない。
「どうしてプレゼントなんて……」
「深い理由はない。強いて言えば、俺が似合うと思った――ただそれだけだ」
ニッと笑ったルシルは、店員を呼んで購入する手続きを始めてしまった。
こうなればもう、止めることはできないだろう。
高い買い物をさせてしまったアリシアは、申し訳ない気持ちになる。
しかしそれと同時に、大きな喜びも感じていた。
ルシルの瞳そっくりの素敵なネックレス。
本人からそれをプレゼントしてもらえるということが、とてつもなく嬉しかったのだ。
「さ、アリシア。受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
購入の手続きを終えたルシルから、ネックレスを受け取るアリシア。
さっそくそれを首にかけてみる。
「美しい……」
ルシルがぼそりと呟いた。
彼の言動にドキッとするアリシア。
心臓がバクバクとうるさい。
まさかそんなストレートに褒めてくるとは思わなかった。
しかしすぐに、勘違いしている可能性に思い至る。
(ルシル様はお世辞を言ってくれたのね)
ルシルは底抜けに優しい男性だ。
アリシアを喜ばせようとして、そう言ってくれただけに違いない。
「ルシル様、ありがとうございます!」
「……あ、ああ」
アリシアの言葉で我に返ったかのような反応を見せたルシル。
喜んでくれたようでなによりだ、と口にした。
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