15、いのちがけ


 命はかけるが、金はかけない友人が居た。

 懸けもしないし、賭けもしない。けれど命はすぐに卓に置くので、極めて平穏な生活が好きな私とその近辺の人からしてみればえらい迷惑だった。

 まあこう言ってしまうと、手のつけられない社会不適合者。という印象を与えてしまうかもしれないが、友人は労働を苦としない人だったので、お金の代わりに働きで報いるタイプの人だった。

 たまに、学生などが皿洗いする代わりにラーメンの支払いを割り引いてもらう、というシステムがあるが、つまり友人はそれを全方面にやっていた。


 ドケチ、とも違う。確かにお金はビタ一文出さないが、労働に対しての正当或いは過大な対価を求めるタイプでもなかった。

 ボランティアの人数が足りないという理由で呼びつけられても、いつも二つ返事で参加する。

 かと思えば、怖い人たちと洒落にならない喧嘩をし、怖い場所に呼びつけられては殴られ蹴られ。友人の方は殴り蹴ったのかは知らないが、兎にも角にも私にとっては恐ろしくて仕方なかった。

 ある時、何かを盛大に壊し、多額の賠償を請求された時、「内臓を見せるので許して下さい」と言ってその場で開腹しようとしたらしい。実際したとか、未遂だったとか、色々な噂が飛び交った。

 本当か嘘かはわからなかったが、その時の傷を見せてこようとするので、それが本当に嫌だった。

 破滅的なのか、と思いきや、健康に気を遣って朝に白湯を飲み、ランニングしているというので、一体なんなんだと当時は思っていたけれど、今思えば単にお金のかからない趣味だったのかもしれない。


 先日映画を見ていた時に、ふとそういったことを思い出して、あの人は今どうしているのか気になった。けれど、知るのもなんだか怖い気がして、きっとどこかで上手くやってる、ということにした。


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