迷宮炎上配信者 ~現代最強の傭兵、炎上系配信の意味を間違えて世界樹を丸焦げにしてしまう~

オークレー・星

第一話 世界樹大炎上

 炎上系迷宮配信者は、迷宮に放火して回る配信者じゃないらしい。

 俺がそれを知ったのは、この迷宮のシンボル【世界樹】に火をつけた後だった。


「せ、世界樹が……クロンダキアが……燃えております……!」


 青みがかった金髪の少女が頭を抱えて燃えさかる世界樹を見る。この迷宮の代名詞であり、一般層が思い浮かべる迷宮のステレオタイプにさえなっている世界一有名な大樹【世界樹クロンダキア】が今や炎の中の黒い影。その光景は、まるで神話の終わりを告げるかのようだった。やったの俺だが。


「……炎上系迷宮配信者は迷宮内でイタズラをするもんであって、別に放火して回る配信者じゃないのか。今知ったよ。すまんな」


 俺は燃え盛る世界樹を眺めながら呟いた。さすがに申し訳なかった。


「か……勘違いするのはまだわかりますが……だからといって放火を実行しますか……? 止める間もなく火を放っていませんでしたか……?」


 燃え盛る世界樹の輝きに照らされながら少女が引きつった顔で問いかける。


「やる前に避難呼びかけただろ?」


「そうですが……炎上狙いのイタズラだとばかり……!」


「そういうことか。意思疎通はしっかりしないとダメだな……」


 嘆息する。

 生まれてからずっと個人傭兵として生きてきたからか、それとも単に喜怒哀楽に乏しいからか、昔から人とすれ違いがちなのが俺だった。


「……というか、いくら知名度のためといってもはた迷惑なイタズラはやったらダメだろ。たとえ犯罪じゃなくても、モラルやマナーは大切だ」


「何故わたくしは今その点で叱られているのですか……!? それに放火は迷惑行為どころか犯罪行為では……!?」


 驚きのあまりか最後らへんの声が若干裏返っていた。


「そこは安心していい。迷宮は各国の権利が及ばない無法地帯だ。俺もあんたも犯罪者にはならない」


「それはよかった……とはなりません……! 罪に問われてないだけの大悪党です……! それにモラルやマナーは大切だと十秒前におっしゃいましたよね……!?」


「それはそうだな……」


 論破されてしまった。


「まぁ、いわゆる炎上狙いは褒められたもんじゃないが……目的は達成できたんじゃないか?」


 少女のやや後方でぷかぷかと浮かんでいる球と、その上に表示されているカウンターを見る。曰く、球が配信用のカメラでカウンターが視聴者数らしい。配信当初はわずか3だったカウンターの数字は、世界樹に火を放った直後から爆増し、今では15万を超えていた。


 だから喜んでもいいんじゃないかと思ったが。


「なにも喜べません……! 我々の、すごい悪行がすごい勢いで拡散しているだけです……!」


 そうでもないらしい。炎上系は奥が深いな。


『まとめから来ました。なにこれ?』

『炎上系(物理)』

『思ったより世紀の瞬間で草』


 打ちひしがれる少女の周囲をホログラムの文字列が通り過ぎる。とある有名企業が開発した、撮影現場に視聴者のコメントが流れる配信システムの仕業だ。


『やばすぎ』

『さすがにコラだろ』

『↑テレビで速報出てるから実際燃えてるらしい』

『自分で証拠映像残す放火犯とか前代未聞だろ』


「……あああーっ……!」


 少女はコメントを見て崩れ落ちる。その背中に、俺は一言。


「一応聞くが……火、消すか?」


「け、消せるのですか……!?」


 一応訪ねてみると、少女はガバッと立ち上がり物凄い剣幕でこちらへと詰め寄った。


「自分の放った火の制御くらいは出来る」


 温度の制御もできるし燃やす対象も選べる。そうじゃないならダンジョンに放火なんてしない。人が燃えたら危ないし。


「今……! 今すぐ消してくださいませ……! むしろどうして今まで消そうとしなかったのですか……!?」


「それは、まぁ」

 手をかざし、世界樹を覆いつくす濁った黄色の炎をかき消す。


「灰に変えるか木炭で止めるかの差でしかないからな」


 炎の下に残っていたのは、ぷすぷすと黒煙を上げる、かつて世界樹だった巨大な木炭だった。


「……あああーっ……!」


 少女は再び崩れ落ちた。

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