62.罪人の所属はどこに

 集まってくる情報を整理した結果、囚われた聖女の正体が判明した。エキナセア神聖国から逃げた者が、貴国から来たと表現したのも納得できる。


 聖女ビオラの災害復旧支援の一行に、予定にない人物が紛れ込んでいたのだ。ミューレンベルギア妃を唆した罪人、侍女のネモローサだった。彼女は侯爵家の三女で、ミューレンベルギアの従姉妹に当たる。輿入れに同行したのも、親族であった事実が大きく働いた。


 扱いが微妙なので、念の為にホスタ王国へ確認を取る。ミューレンベルギア妃に付いてきたなら、ネモローサの所属はリクニス国だ。しかし罪人として手配したこと、主人であるミューレンベルギアが亡くなったこと。王女の従姉妹という関係から、所属国を確かめて動く必要があった。


 返答は「我が国の民にあらず」という至極当然のもの。カレンデュラは王太后ユーフォルビアの判断に感謝した。これで遠慮なく切り捨てられる。


「ネモローサについては放置します。エキナセア神聖国から問い合わせがあれば、聖女ではなく罪人だと伝えます」


 一方的に聖女と決めつけて捕らえても、いずれ誰かが疑問を呈する。現時点で聖女とされるビオラが、リクニス国に戻っているのだ。その護衛をしたのが新興派となれば、国内で情報が回るのも早いだろう。


 災害地の民は、実際に炊き出しをしたビオラの顔を見ている。聖女としてネモローサがお披露目されたら、違うと否定するはずだった。彼女の功績が誰かに盗まれる心配はない。


 後になってバレるほど、ネモローサの未来は閉ざされていく。それも一つの罰だろう。その意味で、女神エキナセアは確かに国を護って存在した。


「女は怖い」


「あら、その女から生まれたんですのよ」


 にこりと笑って、失礼な発言をした父に釘を刺すカレンデュラ。その微笑みは、恐ろしさと同じくらい美しかった。


「カレンデュラ様って、素敵ね。私も見習いたいわ」


 うっとりと目を細めて手を組む義妹リッピアへ、クレチマスが渋い顔をする。見習わないでくれと懇願する義兄に、きょとんとした顔でリッピアが首を傾げた。


「どうして?」


 無邪気に問うリッピアの素直さに、クレチマスは話を逸らすことにした。さすがに当事者カレンデュラの目の前で、怖いとは言えない。


「そういえば、カージナリス辺境伯令嬢が戻ってくるとか」


「ええ、ビオラを連れて向かうと先触れの手紙があったわ」


 クレチマスの思惑を把握しながらも、カレンデュラは指摘しなかった。国王フィゲリウスが留守にした執務室を乗っ取り、自分の部屋のように活用している。もう彼女が女帝でもいいのでは? 父オスヴァルドもそう思い始めていた。


「結局、全員また集うことになったな」


 物語を知る四人が王宮に集う。その形は、先日の夜会と同じだ。まるで何かに導かれるかのように、一箇所にまとまる。


「一つ、思い出した物語があるのよ」


 全員が揃ったら話す。カレンデュラは嫌そうに扇で顔を半分隠した。どうやら……都合のいい展開ではなさそうだ。

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