14.謀反を企んだ者の最期

 コルジリネ皇太子が示した方法は二つ。穏便な方と現実的な方だ。警告して手を引かせる方法と、戦争を仕掛ける方法だ。ところが、カレンデュラはどちらも拒んだ。


 彼女が選んだ過激な方法は……当事者を始末する。これ以上被害が出ず、ホスタ王国への最大の警告になるよう、遺体を示すことだった。残酷なようだが、当事者は自業自得と諦めてもらうしかない。それだけの騒ぎを起こしたのだから。


「アリウム、イベリス。許可する」


「「承知いたしました」」


 命じられた双子の騎士はさっと動いた。まず片付けるのは、効果の高い人物だ。リクニス国の妃であった女性、それでも効果がなければ元第一王子の順番だった。


 詳細まで命じずとも、戦後処理を知る騎士は動く。戦場なら当たり前の行為であり、己の主君の婚約者が害された。その罰と考えるなら、即座に殺してもらえるだけ幸せだろうと思う程度だ。


 ミューレンベルギア元妃の処刑は、国王の許可が出る直前に行われた。万が一反対すれば、国王の首が並ぶだけの話。騎士二人の認識は、セントーレア帝国が中心だ。皇太子が命じる以上、リクニス国王の許可は不要だった。


「……すまん、俺は娘の味方だ」


 仮にも妻だった女性が断首された親友の肩を叩き、言い訳じみた言葉を吐く。デルフィニューム公爵に、国王フィゲリウスは首を横に振った。どちらにしろ生かす道はない。国を傾ける謀反行為は、死罪以外の罰がなかった。早いか遅いかの問題だ。


 何より、王が自ら身を切らねば、民や貴族はついてこない。命じなくて済んだだけ、気持ちは楽だった。王宮の一室で人生を終えた元妃の遺体は、丁重に葬られることはない。


 ホスタ王国から派遣されている大使へ遺体の一部が渡され、それ以外は野晒しが決定していた。数世代前に王位継承争いがあり、負けた一派が吊るされたことで赤い壁と呼ばれる一角がある。そこへミューレンベルギアの遺体は吊るされた。


「さて、ではホスタ王国の出方を待つ間に、深いお話をしましょうか」


 カレンデュラは何もなかったように人々を促し、顔を見合わせた被害者一団は頷いた。王宮内の客間を一つ借りて、ぞろぞろと入っていく。


 三組の男女と聖女、そこで扉が閉ざされた。残された双子の騎士は扉を守り、置いて行かれた親達は顔を見合わせる。


「俺もダメなのか」


 肩を落とすデルフィニューム公爵に、タンジー公爵は手を伸ばした。肩を叩き、行こうと声をかけた。項垂れたデルフィニューム公爵は娘のそばに残りたいと訴えるが、双子の騎士に追い払われた。


 肩を落とした公爵二人と国王は、仕方なく別の客間に集まる。ビオラの両親である男爵夫妻は、この時点で忘れられていた。養女のビオラは心配だが、ここに残ってもできることはない。迷った末、双子の騎士に伝言を頼んだ。


「娘のビオラへ伝えていただけますか。屋敷に戻っています……必ず帰ってきてほしいと」


 何も言わずにいなくなるかも。不安を滲ませた夫妻に、双子の騎士は必ず伝えると約束した。振り返りながら帰っていく男爵夫妻を見送り、イベリスは剣の手入れを始める。先ほど首を落とした際、刃に残った脂を拭うためだ。


 曇った刃を丁寧に磨く弟に、アリウムは苦笑いした。主君のための武器となることが、二人の仕事であり使命だ。室内の会話は聞こえないが、話が長くなりそうなのは理解できた。アリウムも手入れのため、愛用の剣に手をかけた。

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