06.茶番を許した原因は?

「アレの王位継承権はもちろん、王族籍も剥奪しよう。いかがか」


 すでに息子や王子ではなく、アレと称されるほど見放されたらしい。庇えば、自国の貴族社会が崩壊して、他国に侵攻される原因になるのは確実だった。


「私ではなく、姫が納得するかどうか……では?」


 さらりと逃げる皇太子に、抱き寄せられた公爵令嬢はふふっと笑う。こういう腹黒いところ大好きよ、そんな呟きが美女の唇から零れた。聞かせる意図があったのか、国王フィゲリウスは苦笑いする。


「私は、処罰の内容と伯父様のお詫びを聞いてから判断しますわ」


 簡単に引き下がらない。そう告げた娘に、父であるデルフィニューム公爵は得意げな顔をした。幼馴染みの二人の間で、お前の育児は失敗したが俺は成功した、とマウント取りが始まったようで。国王陛下はやれやれと首を横に振った。


 勧められるまま全員が着座し、お茶やワイングラスが用意される。ここで手に取る者はいないだろうが、これから話が長くなると予告するには最適だった。少なくとも、酒を呷りたくなる話が始まると知らせるためだ。


「結局のところ、あの茶番を許した原因はなんでしたの?」


 国王は無能ではない。いや、無能ならとっくに交代させられていた。ある程度内情を知る公爵令嬢カレンデュラの指摘は、己の父を信じているが故だ。外交手腕に優れた父が、無能な君主を放置するはずがない。実際、国王の采配に大きな失態は見られなかった。


 何か理由があって、茶番を待っていたのでは? もっともな質問に、タンジー公爵も静かに頷いた。


「ふぅ……カレンデュラには隠せないな。さすがは黄金の華だ」


 褒め言葉は外見を示しているようだが、黄金と引き換えてもまだ追いつかない才女への賞賛が込められている。父親譲りの才能を見せる彼女は、口元を扇で隠した。陰で、こっそり皇太子が顔を寄せる。コルジリネは婚約者に任せる方針のようだ。


「アレの母ミューレンベルギアは、ホスタ王国の出身だ。その実家が我が国に欲を見せて、な。乗っ取ろうと画策した結果が、今回の騒動だ」


 説明が簡単すぎて、全員が疑問符を浮かべる。だが話が長くなると示された状況なので、質問は呑み込んだ。


「知っての通り、フィゲリウスの妃は二人いる。リンデルニア妃とミューレンベルギア妃だ。我が国では通常王妃は一人だが、結婚直後にホスタ王国と揉めた結果、和解の証として受け入れた」


 この話は有名だった。ホスタ王国から来た使者を、国境の兵士が殺してしまったのだ。その辺は事故という形で有耶無耶にされたが、裏は複雑だった。和解のため、両国の絆を繋ぐため。そんな名目で送り込まれたのが、ミューレンベルギアである。


 第三王女だった彼女は、新婚家庭に土足で踏み込んだ。だが冷遇するわけにもいかず、国王は彼女に息子を授ける。ほぼ同時に身籠った二人の妃だが、リンデルニアは第二王子を産んで死亡。第一王子の称号は数日の差で、ミューレンベルギアの子に与えられた。


「やっぱり噂は本当でしたか」


 今回の騒動の根は二十年近く前、国境での騒動から繋がっている。タンジー公爵の指摘に、国王と側近であるデルフィニューム公爵は無言で同意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る