爪切り伯爵

エリー.ファー

爪切り伯爵

 もう、ずっと寝て。

 本当に、パパみたいにずっとゴロゴロして。

 いい加減にしなさいよ。

 宿題だって、まともにやらないし。

 あんたっ、最近は部活もサボってるんでしょ。

 聞いてるよ、顧問の先生から、全部。

 あぁ、もう汚い。

 これ、洗濯するんでしょ、洗濯機の中に入れるって約束したでしょ。

 本当に、全く。 

 ママも小学生の頃は遊んでたけど、あんたみたいに、のんびりしてたわけじゃないからね。

 それに、ねぇ。

 爪を切りなさい。

 そんなに、伸ばしてたら怪我しちゃうし、怪我させちゃうでしょ。

 え、なんで分からないの。

 冷静に考えてみなさい。

 爪が伸びてて、色々な所に引っかかって爪が欠けたりするかもしれないし、誰かの顔を引っかいちゃうかもしれないでしょ。

 だから、爪は切らなきゃいけないの。

 分かったね。

 え。

 嫌なの。

 なんで、嫌なの。

 爪なんて伸ばして良いことなんて一つもないでしょ。

 じゃあ、えぇとね。

 あの、ね。

 爪切り伯爵っていう怪人がいるの。

 ね、いるの。

 え、聞いたことない。

 聞いたことない、とか関係ないの。

 あんたが知らなくても、ママが知ってるんだから、それでいいの。

 爪切り伯爵って怖いんだよぉ。

 爪切り伯爵はねぇ、爪を伸ばした女の子の所に来て、爪を切ろうとするの。

 だけど爪切り伯爵は、爪だけじゃなくて指も切っちゃうの。

 ねぇ、怖いねぇ。

 爪を伸ばした悪い女の子はいないかって探し回って、もう二度と爪を伸ばさないように、指自体をちょん切っちゃうんだよ。

 怖いねぇ。

 だから、ダメです。

 ね、髪も伸ばし放題だし、流石に長過ぎるから切りなさい。

 ね。

 え、伯爵はいるのかって。

 は、何言ってるの、あんた。

 伯爵がいないなら、切らないって。

 いやいや、伯爵とか関係ないから、そういうことじゃないの。

 不潔だから、どうにかしなさいってことを言ってるの。

 じゃあ、えっと

 その。

 いるよ。

 髪切り伯爵もいる。

 髪切り伯爵はね、髪を伸ばし放題の女の子の所に現れて、伸ばし放題はいけないんだぞぉって言って、髪を切り始めるの。

 だけど、髪切り伯爵は髪だけじゃなくて、頭の半分も切っちゃうの。

 長いはさみでジョキジョキ切っちゃうんだから。

 ね。

 怖いねぇ。

 髪切り伯爵って、怖いでしょう。

 だから、髪はちゃんと切ろうね。

 あと、足の爪も切っておきなさい、そんなに伸ばして汚いんだから。

 え。

 いる。

 いるいる。

 足の爪切り伯爵もいる。

 いるったらいるの。

 もう、あれよ。

 その、なんていうのかな。

 足の指の爪を切っておかないと、あれよ、その、足を切っちゃうのよ。

 えぇと、はさみじゃなくて、その、のこぎりとかで。

 ギザギザの歯で、ゴキゴキ音を立てながら足を切っちゃうのよ。

 もちろん、あれよ。

 麻酔とかは、なしよ。

 だから、凄く痛いの。

 もうね、絶対に泣いちゃうと思う。

 えーん、えーん、とかじゃきかないと思う。

 うぐえーん、うぐえーん、とかの泣き方になっちゃうと思う。

 ていうかね、足の爪切り伯爵は、もう見た目がすっごく恐いから。

 だって、なんかねぇ、もうゾンビらしいから。

 怖いねぇ。

 ねぇ、怖いねぇ。

 だから、足の爪もちゃんと切ろうねぇ。

 ね、分かったよね。

「うん。だからママって指が全部ないし、足もないし、頭も半分なんだね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

爪切り伯爵 エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ