1 出会い
「あーつまんない。」
私はあの日、空を眺めていた。
私は生まれてからずっとひとりだった。親の顔も知らない。ましてや友達なんてひとりもいない。生まれてすぐ一人で泣いていた。しかし10日くらい経って、泣いていてもしょうがないと思い、自分でなんでもやって生きてきた。
そして、あの日も腹がすくまで、ずーっと空を見ていた。でもそれから私はしばらくして歩き始めた。すると向こうから誰かが来るではないか。私は腹が空いてるのも忘れ、ぼーっとして突っ立っていた。
ここは3年に1度、人がくるのでも珍しい。なのに、なのに。
すると、向こうの人が
「君ずっとここに住んでるのか?しゃべれないの?名前は?」と言った。
初めてだった。私に話かけてくれる人なんて…。
私は初めて言葉を交わそうと思った。が、口が動かない。
でも思い切って、
「わっわたしは、なまえなっなんてないっ」
とありったけの思いで声を発してみた。
「えっ、名前ないの?おもしろいね、君って」
その人は一緒に来いと言って、あるところに連れて行った。そこはとっても素晴らしい家だった。
ひのきの匂いがして、とってもあたたかい。
ここにこんな家があるとは・・・。
それから、そいつはいろいろ話し始めた。そいつは、まことという名前だと言っていた。それから私は安心していろいろ話した。捨てられたということも、20年ここに住んでいることも…。
それから私とまことは、とても仲良くなった。
友達。いや、家族みたいな人ができて、とても嬉しかった。いつもいつも一緒にいた。その日々は毎日が夢のようだった。
ある日、私は聞いた。
「どうして、こんな所に来たんだ」
すると、まことはしばらく黙っていたが、そのうち
「…僕は、いや、僕も君と同じなんだ。友人は居たし、育ての親もいたけど、ある日あんまりの生活に家を出たんだ。鳥になりたくて…」
私は驚いた。鳥になりたいなんて・・・
それからまことは、私に善行という名前を付けてくれた。どんなことがあっても良い行いをしろ、という意味だそうだ。
そして、もう何年か過ぎたある日…とんでもないことが起こった。
まことの両親が、まことを探しに、この森にやってくるという噂を街で耳にしたのだ。
それをまことに話すと、「いいサア。」と余裕の声が返ってきた。
それから、数日もしないうちに、私はまことの親を見た。
そして、ある日…。
まことがどうしても街に買い物に行くと言う。やめた方がいいと止めたのだが、「だいじょうぶサ」と言って出て行った。
そう言われたものの、私は心配になって家を出た。
するとどこからか、「やめてくれーっ!」という声が聞えてきた。私はすぐに走っていった。すると、まことが両親に見つかってしまっていた。
「まことちゃん。いい加減、うちへ帰りましょう。」と母親らしき人が言った。それでも何も言おうとしないまことに、父親らしき人は言った。
「まこと、いい加減言うことを聞かないと、お前の大切な小鳥を…」
「やめてくれ!!…分かった。あと10日しても僕が家に戻らなかったら、その時は小鳥をどうしたってかまわない。それまでは、頼むから待ってくれ…。」
私はどきっとした。
聞いてはいけないことを聞いてしまったと思い、急いで家に戻った。
心臓が鳴っている。息ができないほど苦しい。
「ただいまー」
しばらくするとまことが戻ってきた。
「まこと、遅かったなあ」
何もなかったような顔をして、私は言った。
「ううん、ちょっとナ。ちゃんと買ってきたぞ」
まこともまた、何事もなかったかのような顔でそう言った。
それから10日後のことだった。
私が寝ている間に、まことはいなくなっていた。
机の上に手紙があった。
―前略―
善行、すまないな。私はやっぱり家に戻らなくてはならなくなった。善行の言う通り、逃げていればよかったな。すまない。お前を一人にして悪い。
またきっといつか会えるサ。じゃあ。
親愛なる善行へ
誠 ―
それだけだった。
私は知っていたのに。
あの日、誠と両親が話していたのを見たことを話していれば、逃げようと言っていれば、誠はきっと一緒にどこかへ逃げたに違いない。そう思っていた…。
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