第2章 探索 5 容疑者たち

 日下部園美くさかべそのみ 四十三歳 会社員 埼玉県 在住。

 鮫原朔斗さめはらさくと  三十六歳 自営業 東京都 在住。 

 巻本俊まきもとしゅん   五十一歳 中学校教師 神奈川県 在住。

 堂島渉どうじまわたる   五十六歳 医師、開業医経営 東京都 在住。

 川上真一かわかみしんいち  二十七歳 経営コンサルタント 茨城県 在住。


「この五名が朝子の浮気相手か。年齢層が幅広いな。で、こっちのが……」

 ハルがノートパソコン上の氏名をクリックする。


 桜木御代志さくらぎみよし 十九歳  無職(死亡) 東京都 実家在り。


「こいつは朝子が殺される以前に自殺しているから関係ないだろ」

 稲水がいった。ホテルの部屋にもどったふたりは、久永がハッキングして得た容疑者リストの検証をはじめた。自殺した桜木のデータはもちろんリストの中にはなかったのであるが、朝子の不倫相手であったことで、参考程度に氏名と顔写真が添付されていたようである。

「一応、全員にアリバイがあるようだな。稲水、この中で面識のあるやつはいるか?」

 稲水は五人の画像を見つめるが、小さく首を振った。

「いや、誰も知らない。名前だけは朝子から聞いていたし、事情聴取で刑事から写真を見せられたことはあったけど」

「巻本は教師か。いったいなにを生徒に教えているんだか」

「鮫原ってのはヤクザっぽいな。朝子はどこでこんなのと知り合ったんだろう?」

「ヤクザなら暴力団組員とか構成員と書かれているだろう。いずれにしてもまともな商売をしているような顔ではないな、目つきが悪すぎる。私なら喜んで血を吸うだろうが、寝るのはご免だな……住み家は埼玉に東京、それに神奈川、茨城か。まずは東京、近場から攻めるか」

「そうだな。鮫原が一番、犯人っぽいし」

「顔で判断するな、稲水。悪役専門の役者だったらどうする? ルッキズムはよくないぞ」

「ハルだって、まともな商売してない顔だとかいったろうが」

「あーら、そうだったかしら」

「かしら、じゃねぇよ」

 かすかに笑顔を見せる稲水。

「私も、たまには女っぽいところも見せないとな」

「なんでだ?」

「おまえを喰う前にとしてみせるのも、この一年の私の目標だからな。一度、体内に受けいれた男の生き血をすするなんて、なんと耽美たんびな……」

 うっとりとした表情を浮かべるハル。

「まだそんなことをいっているのか? 俺は寝ないよ」

「はは、私にキスされて喜んだ男がなにをいう」

「……そうだけど。ヴァンプのプライドはどこへいった?」

「ヴァンプの前に女のプライドなんだよ。朝子みたいなクズ女に、この私が負けるわけにはいかんのだ」

「クズ女ね……かわいそうに朝子。どんどんひどいいわれように変わっていくな」

「ごく自然な流れだ」

「ふふ、ハル、明日、鮫原に会いにいくよな?」

「ああ。それがどうした」

「鮫原と寝たらどうだ? 朝子を口説いた男だ、美人のハルならまっしぐらに食いついてくるぜ」

「美人は当然だが、どこまでもおめでたい男だな。朝子が口説いたとは思わないのか?」

「ハルがいった天性の女優説が正しければ、誘った可能性はあるかな。考えてみたら、俺も朝子から求婚を仕向けられたような気がする」

「おまえはともかく、鮫原とは。朝子にはゲテモノ趣味もあったらしい」

「ハル」

「なんだよ」

「ルッキズムはよくないぜ」

 ニヤリと笑う稲水。舌打ちするハル。

「おまえ、いつか殺すからな」

「知ってるよ」

「ふん! うまいこと、はぐらかしやがったな」

「仕方ないよ」

「なぜ?」

「俺、ハルをよろこばせる自信がないからさ」

「どこまでもヘタレ男だな」

「今さらなんだよ?」

「確かにな……」

                            (つづく)

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