第2章 探索 5 容疑者たち
「この五名が朝子の浮気相手か。年齢層が幅広いな。で、こっちのが……」
ハルがノートパソコン上の氏名をクリックする。
「こいつは朝子が殺される以前に自殺しているから関係ないだろ」
稲水がいった。ホテルの部屋にもどったふたりは、久永がハッキングして得た容疑者リストの検証をはじめた。自殺した桜木のデータはもちろんリストの中にはなかったのであるが、朝子の不倫相手であったことで、参考程度に氏名と顔写真が添付されていたようである。
「一応、全員にアリバイがあるようだな。稲水、この中で面識のあるやつはいるか?」
稲水は五人の画像を見つめるが、小さく首を振った。
「いや、誰も知らない。名前だけは朝子から聞いていたし、事情聴取で刑事から写真を見せられたことはあったけど」
「巻本は教師か。いったいなにを生徒に教えているんだか」
「鮫原ってのはヤクザっぽいな。朝子はどこでこんなのと知り合ったんだろう?」
「ヤクザなら暴力団組員とか構成員と書かれているだろう。いずれにしてもまともな商売をしているような顔ではないな、目つきが悪すぎる。私なら喜んで血を吸うだろうが、寝るのはご免だな……住み家は埼玉に東京、それに神奈川、茨城か。まずは東京、近場から攻めるか」
「そうだな。鮫原が一番、犯人っぽいし」
「顔で判断するな、稲水。悪役専門の役者だったらどうする? ルッキズムはよくないぞ」
「ハルだって、まともな商売してない顔だとかいったろうが」
「あーら、そうだったかしら」
「かしら、じゃねぇよ」
かすかに笑顔を見せる稲水。
「私も、たまには女っぽいところも見せないとな」
「なんでだ?」
「おまえを喰う前に
うっとりとした表情を浮かべるハル。
「まだそんなことをいっているのか? 俺は寝ないよ」
「はは、私にキスされて喜んだ男がなにをいう」
「……そうだけど。ヴァンプのプライドはどこへいった?」
「ヴァンプの前に女のプライドなんだよ。朝子みたいなクズ女に、この私が負けるわけにはいかんのだ」
「クズ女ね……かわいそうに朝子。どんどんひどいいわれように変わっていくな」
「ごく自然な流れだ」
「ふふ、ハル、明日、鮫原に会いにいくよな?」
「ああ。それがどうした」
「鮫原と寝たらどうだ? 朝子を口説いた男だ、美人のハルならまっしぐらに食いついてくるぜ」
「美人は当然だが、どこまでもおめでたい男だな。朝子が口説いたとは思わないのか?」
「ハルがいった天性の女優説が正しければ、誘った可能性はあるかな。考えてみたら、俺も朝子から求婚を仕向けられたような気がする」
「おまえはともかく、鮫原とは。朝子にはゲテモノ趣味もあったらしい」
「ハル」
「なんだよ」
「ルッキズムはよくないぜ」
ニヤリと笑う稲水。舌打ちするハル。
「おまえ、いつか殺すからな」
「知ってるよ」
「ふん! うまいこと、はぐらかしやがったな」
「仕方ないよ」
「なぜ?」
「俺、ハルを
「どこまでもヘタレ男だな」
「今さらなんだよ?」
「確かにな……」
(つづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます