第10話 勇者⑥

 突如、空には雨雲あまぐもが立ち込め、雷鳴らいめいとどろき始める。


 そんな中、勇者ハインツが女僧侶シスターカゴメに向かって、これまで見たこともないような真剣な様子で話し始めた。


「なあ、カゴメ。聞いてくれ。俺、実はずっと前から──お前のこと」


 ザアアアアと雨が降り始める。魔法使いキューピーは目配めくばせで話をめようとするが、決意を固めた男はまらない。


「なんですの、勇者様」


「ああ、俺、実はずっと前から──お前のことを合コンに連れてきてくれないかと知り合いから頼まれていたんだ。でも僧侶をそういうところに連れていってはいけないみたいだったから──でも、今なら!」


 カゴメは戸惑とまどったような表情を見せたあと、にこりと微笑ほほえむ。


「合コン……なんて甘美かんびな響きなのでしょう。まさに神への叛逆はんぎゃくといった感じがして素晴らしいですわ。ところで……合コンってなんなのでしょう?」


「いや、俺もよく知らない」


 勇者と女僧侶シスターがキューピーを見る。


「分かった、あたしも一緒に行ってあげるわ。でも大丈夫? 合コンって相手と仲良くなるとそのまま付き合うこともあるし、場合によっては出会った日にエッチしたりもするけど」


 勇者と女僧侶シスターがキューピーを見たまま固まる(女僧侶シスターは鼻血を垂らしている)。


「それでも行くの?」


「「やめておきます」」


 雨はみ、またたく間に雲は去り、空には月が見えていた。

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