No.2
一時間程走ると海に着いた。時刻は既に午後七時を過ぎている。相変わらず空には低く厚い雲が垂れ込め、既に辺りは暗くなっていた。崖の上の灯台が海を照らしている。僕は車から降りると、砂浜へと歩いた。雨は既に止んでいて、夕暮れの空気を少しだけ冷やしていた。波打ち際ぎりぎりまで行くと、何をするでも無く、ぼんやりと水平線に目を向けた。遠く船舶の光が見える。何だか水上都市のようだ。ふとそんなことを思って笑った。以前にフジとここに来た時に、フジも同じことを思っていたと聞いた。それと同時に、この場所があの冬の日にフジと来た海と同じだと改めて実感した。今見ている景色は、確かにあの日と同じものだった。それでも、そこにあるのは違う景色だった。きっと季節が違うせいだ。そう思うことにしておこう。
不意に、何の脈絡も無く昔の記憶が蘇った。確か中学の頃だ。だいたい今と同じくらいの時期。束の間の梅雨の晴れ間の、夏と錯覚しそうな暑い日だった。僕らは駅の近くの、古びた倉庫に集まった。以前は電車の車庫として使われていたそうで、僕らの秘密基地と化した場所だった。そこから伸びる廃線の上を、ひたすら歩き続けた。廃駅を通る度に、リュウが駅名を楽しそうに読み上げていたのが、何だか可笑しかった。途中で確か夕立に降られ、慌てて次の廃駅まで走った。
目的地は決まっていて、終着駅にある廃ビルだった。鍵は壊れていて、容易に中に入ることができた。僕らは屋上を目指した。廃ビルはそれなりの高さがあり、屋上からは随分遠くまで見渡すことができた。僕らの町も確認できる。既に日は傾き始め、気の早い明かりがぽつぽつと見え始めていた。その景色が僕は好きだった。
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