第3章

No.1

大型連休の浮ついた空気が漸く薄れた、五月半ばの朝も早い時間、突如現れた来訪者に僕は困惑していた。

「出かけるぞ、準備しろ。」

そう言って半ば僕をアパートから引っ張り出しバイクに乗せると、強引にヘルメットを被せてきた。

「カイト、久しぶり。」

「おう、久しぶり。」

僕の挨拶に短く返すと、久々の再会の空気を味わう間もなく、バイクは動き出した。

きっかけは連休中に来たフジからの一通のメールだった。

「カイトがお前に会いたがってる。」

その最初の一文に僕は固まった。動揺したままメールの続きを読む。お互いの日程を合わせたいから、予定を教えろと明記されていた。適当に理由をつけて断ればいいものを、動揺した僕は素直に予定をフジに教えてしまった。恐らく嘘をついたところで、僕のその場しのぎの誤魔化しなど、フジには通用するはずもなかっただろうが。

「アパートの場所はフジに聞いたの、」

バイクに慣れていない僕は、カイトにしがみついたまま、少々声を張り上げながら尋ねる。

「そうだよ。」

同じように声を張り上げながらカイトが答えた。余計な事をしてくれる。内心フジに毒づきながら小さく溜息を吐いた。

カイトは僕とフジの高校時代からの友人だった。フジと同じ高校に入学した僕は、人見知りの性格のせいで、なかなか友人を作る事が出来なかった。偶然にもフジと三年間クラスが一緒だったのは、僕にとっては大きな救いだった。カイトと出会ったのは、入学して一ヶ月程経った時だった。誰が言い出したのか、校内で僕らがバンドを組んでいると噂が広まった。そんな僕らにカイトは興味を持った。明るい茶髪に、その髪の間から見える耳にはピアスが光った。どこか尖った雰囲気も相俟って、正直最初はカイトが苦手だった。当初は警戒してなかなか上手く話す事が出来なかった。だけど徐々に、派手な見た目とは裏腹に、内面が僕と似ている事に気付いた。カイトも周りに馴染めず、孤独を抱えている。それに気付いてからは、拙いながらも少しずつ距離が縮まっていった。

「入学してまともに喋ったのは、お前らが初めてだよ。」

とある昼休み、屋上で三人で弁当を食べている最中、カイトはそう言って笑った。

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