No.4
フジは天体少年だった。フジの部屋の本棚には、星座図鑑や宇宙の仕組みなど、そんな類の本が何冊も並んでいた。窓際には望遠鏡も置いてある。中学の入学祝いで買ってもらったものだとフジから聞いた。星好きが高じて、望遠鏡を手に入れてからは、ほぼ毎晩ベランダから天体観測を行っているらしい。そんなフジの熱意に、最初はなかなか圧倒されていた。そんなフジが羨ましかった。
「天体観測しよう。」
十代も終わりに近付きつつあった四月一日、僕の家を訪ねたフジは唐突に言い出した。
「明日の午前二時、東の踏切で待ってるからな。」
僕の意見は聞かずに、フジは楽しそうに話を進める。呆気にとられる僕を置き、絶対来いよと言い残してフジは帰って行った。正直、外に出るのは気が進まなかった。だけどきっと、フジは僕が来るまで踏切で待ち続けるだろう。
午前一時半を少し回った頃、僕はこっそりと家を出た。踏切までは距離がある為、自転車を使う。ペダルに足を乗せた直後、ふと気になって羽織っていたパーカーのフードを目深に被った。誰かに見られるのが怖い。向けられる視線全てが怖かった。こんな夜中に、そんな心配は無用だろう。自意識過剰なのは分かりきっていた。
踏切までは自転車で約二十分。恐らくフジはもう居るだろう。その予想は的中し、踏切の横で待つフジの姿が確認出来た。
「二分の遅刻だな。」
到着した僕に、開口一番に笑いながら言う。そんなフジに苦笑いで返した。
「始めるか。」
そう言うと、フジは望遠鏡の準備を始める。
「今夜はこのまま天気良いみたいだしな。」
僕を見ながらフジは笑った。
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