余命少女と呪殺霊

猫と読む部屋

01 余命宣告の少女

ピー、ピー、ピー、と何かの機械音が鳴る。全く何をしていたかも、何故こんなところにいるかも思い出せない。どうしてか、誰かのすすり泣く声や歓喜する声が聞こえる。でも何か、なにか遠くても大切なものを失った気がする。目を開けると、横には家族達がいた。そして目の前には白い制服を着た医者らしき女性がいた。

「一時期は目が覚めないかと思われましたが、良かったですね。少し安静にしておいてください」

「はい、はい、ありがとうございます」

母が、父が、ずっと横で良かった、良かったと嬉し泣きしている。何があったのか、どうしてこんな病院にいるのか、私にはまだよくわかっていないのに。その日は全く状況の整理ができなかった。いくら聞いても、お医者さんは「事故にあったらしいです」としか言わない。そんな記憶はない、というか学校であったこともあまり思い出せない。友達にラインで連絡したらすごい心配されて、喜んでた。みんながみんなそうなら本当かもしれない。それくらいにしか思えず、ずっとふわふわとなにもはっきりとしなかった。それと、医者に言われたあの言葉。信じ難いが、恐らく事実なのだろう。

「非常に申し上げにくいのですがー、娘さんはあと二年程度でしょう」

あと二年。私の命はそれくらいしかないと、あのとき告げられた。もちろん両親は酷く悲しんだ。今まで元気な姿をみてきたから尚更だ。でも私はそれよりも何しよう、としかずっと考えてなかった。自然とそのときはどこも痛んでなかった。どちらかというと感じてなかったかもしれないが。目立った外傷は不思議となく、内部損傷が激しかった。思いっきりお腹に車が突っ込んできたから無理もない。少し心臓と胃が弱って、肋骨も折れかける重症。まあ普段から男友達と暴れてる身だからか、耐性はあったのだろう。でももう痛みが感じなくなってしまった。しばらくリハビリのために少ない量で回数を増やし、なんとか1人前食べれるようになった。最初は一口も食べたくなかったし、食欲もなかった。そのせいで元々痩せていたのに、更に体重が減ってしまったのだ。心臓もまあまあダメージ喰らっていたから、もう十分に走る事ができない。疲れやすくなっていた。学校が終われば、あいつらと毎日のようにひと暴れして帰っていたものだ。それができなくなって今は少し静かになった。両親は、どっか行くたびに怪我する姿を見なくていいと言っていたがな。そんなにわんぱく娘だったもんだから、学校に行けるようになってもなんだか寂しかった。それに、身体がたまにゆうこときかないし、満足に動かせないのは納得いかない。やんちゃすぎて天罰が下ったのかな、なんて馬鹿みたいなこと考えてしまうくらい。ついでに家でやる事があまりなくって退屈だった。なんでこんなつまんない日常になってしまったんだろう。たまに友達が来てくれるけど、ノリで身体を叩いたり、ふざけたり、ということはみんな気遣っているのか全くしなくなった。そんなある日、一人の友人からこんなことを聞かれた。

「そういや、あとなんだろ?なんで勉強なんかしてるんだ?遊ばないのか?せっかくの余生、したいことをしようとは思わないのか?」

かなりのおせっかいだ。こいつはもとからそうゆうやつだった。私が、それはみんなと過ごす時間を潰したくないから。というと、じゃあどっかでなにか一緒にしよう!といろいろ提案してきたのだ。でも実際、みんなはそれに賛同していた。私はいつも通りでいいんだけど、何かみんなで特別なことしようぜ!とあとからわらわら出てきた。流石にそんなにいたら対処しようもなく、オーケーした。まあでもこれはこれで別にいいかもしれないな、なんて自室で思い出してはひとりニヤけていた。…だけど、変わったことはそれだけじゃなかった。なんと、元からこの家に居候しているという幽霊が視えてしまったのだ。私は聞いたことがある、死期が近いとこのよのものではないものが視えると。きっとそれだろう、これ幸いにとその幽霊は事あるごとに邪魔をしてくるようになってしまった。家でゴロゴロスマホいじったり家族と食べたりするときや、学校までわざわざついてきて勉強の邪魔をしたり。正直こんな陰湿なやつとは思わなかった。ねっとり纏わりついてるのに、こちらからはなにも対処ができないほど腹立たしいものはない。次第に余裕がなくなり、ついにキレた。我慢の限界だった。

「あー!もうしついこいんだよ!残りの余生くらい静かにさせて!」

学校の階段で、わざと落とそうとしてきたときに言ってやった!けどこれは私は貴方が視えますと宣言してるようなもので、かえってあいつは喜んでしまった。

「お前、視えるのか?」

まずい、遂に怒鳴ってしまったがついでにバレてしまった。余計めんどくさくなりそうだ。霊は、ふよふよ浮いてこっちを見ながら回転して纏わりついてる。

「はあ…そうだけどなにか」

いかにもご機嫌斜めの声で返す。流石に霊も何か反省したのか謝ってきた。

「いやはや、これは稀なことではないか。そうだろう?お前もわかってるはずだ、希少種だとな。まあ今までのは許せ、ちょっとしたちょっかいだと思ってもらって構わない。でも今のは悪かったな」

確かに、霊なんて存在を訴える霊能者やホラー番組を見ても、んなわけと軽くあしらってきた。本物だとは思いたくない、これは幻覚だと何度か言い聞かせた。けど命を狙ってまでアピールするもんだから、とうとう怒鳴ってしまったのだ。

「んー、とりあえずさあ何処でも出てくるのはやめてくれないかなあ、せめて私の部屋だけでもさ」

鬱陶しいから頻度を落としてもらいたいのも事実だが、まずは学校だけでもやめてもらわないと。

「いやあそれは困る。こっちもこっちで暇なのだからな、お前もわかるだろう?な?」

この後何度か提案したが、どれも不発に終わった。それなのに、余計うるさくなってしまった気がする。本当に、本当に幽霊は嫌な奴だ。残りの余生は、人の友達や家族とだけ暮らしていたかった。

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