あなたのそばにも首吊り女性!
崔 梨遙(再)
1話完結:800字
幼い頃、多分、小学校の低学年だったと思う。僕は母に連れられ、母の友人の家を訪れた。僕は、母の友人の家に行くのが嫌だった。だいたい、母の隣で2~3時間は正座をさせられる。“隣で正座してジッとしていなさい”と言われるからだ。なんのために僕が連れて行かれるのかもわからない。退屈で、足が痛い。精神的にも肉体的にも苦痛だった。だが、その日はいつもと違った。
「奥の部屋で、TVでも見てなさい」
正座をせずにすんだ。なんとラッキーなことだろう? 僕は喜んで奥の部屋に入った。だが、奥の部屋に入ったら、目の前で黒い長い髪、黒い服の女性が首を吊っていた。思わず、息を飲んだ。これでは、この部屋にいられない。そして母の元に行き、
「奥の部屋、嫌やねんけど」
何故か“女性が首を吊ってる”とは言えなかった。言ってはいけない気がした。
「何を言うてんの? TVが退屈やったら寝て待っててや」
奥の部屋に戻された。やっぱり女性が首を吊っている。僕は、その女性を見ないようにして、怖いのでTVを点けた。そして首吊り女性に背を向けて寝転がり、首吊り女性を見ないようにした。
だが、気になる。時々チラッと見る。いる! やっぱりいる! チラッと見る。いる! やっぱりいる! チラッと見る……そんなことを繰り返した。眠れない。首吊り女性は何もしない。ただ、そこにいるだけだった。次第に、怖くなくなってきた。実害が無いからだ。首吊り女性は何もしない。気にしなければいいのだ。僕は環境に慣れたのか? 心が麻痺したのか? いつの間にか眠っていた。
2時間後、帰ることになり起こされた。ようやく僕はその家を後にした。
帰り道で母に聞いた。
「あの家、誰か首吊ってない?」
「よくわかったなぁ、あの家、首吊りがあったから安く買えたらしいで」
僕は、首吊り女性と2時間も同じ部屋にいたのだ。僕以外には見えなかったみたいだけど。僕は、幻覚だと思うことにした。でも、今でも忘れられない。
あなたのそばにも首吊り女性! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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