『うーろんろう』

やましん(テンパー)

『うーろんろう』


 やましん、いきつけのお店で、真夏の怪談祭りが行われていた。


 酒飲みさんが多く、景気は上がっていた。


 やましんが、語った。


 『母が亡くなる日の朝、ぼくは、通勤距離80キロの道のりに、でかかっていたのです。まだ、母がいる病院は近い。


 ふと、寄ろうか、とも思ったのですが、まだ、6時すぎ。いくらなんでも早すぎる。


 やはり、帰りにしようと思ったのです。


 で、いつものように、クラシック音楽を聴こうしたのですが、CDがなぜか、作動しません。あやあ、また、壊れたか。


 たしかに、そのプレーヤーは、故障したことがあるのですが、その頃は修理して、きちんと動いておりました。

 

 それで、したかないから、FMラジオをつけようとしました。


 ところが、AMラジオは入るのに、なぜだか、FMに切り替わりません。AMでは、好きな、クラシックはやっていません。


 どう、スイッチをいじくってもだめ。


 運転中ですから、無理はできません。


 すぐ、おかしい、と思って、病院によればよかったのです。


 しかし、ぼくは、仕事を優先させ、そのまま、はるか、彼方の職場に行きました。


 母は、その夕方、亡くなりました。連絡を受けて、高速道路を必死に飛ばしましたが、30分ほど、間に合いませんでした。あと、病院まで少しというところで、ドクターから電話が入り、『おかあさん、いま、心臓が止まってしまったんですよ。』と。ぼくは、すごく、悔やみましたが、もう、どうにもなりません。


 あれは、母が呼んだのかもしれないと思いました。あのとき、すぐに、病院に行くべきだった。と。


 帰りがけは、CDも、ラジオも、きちんと鳴っていたのですから。』



 ばちぱちぱち、と、拍手が起こった。


 『おつかれ。』


 ママが言った。


 『なにか、飲みますか?』


 『あ、じゃ、うーろんろう。』


 『うーろんろうね。』


 それを聞いていた他の常連さんが尋ねた。

 

 『まま、うーろんろう、て、なに?』


 『やましんさんのふちょうで、ウーロン茶のこと。なんか、ウーロン茶って、言いにくいとか。酒飲みばかりだからね。』


 『はははははは。おろかなことよ。まま、ウーロンハイね。こいめに。ばんばんゆこう。』


 すると、連れの女性が言った。


 『あたくし、うーろんろう。』


 『わたしも。うーろんろう。』


 『はいはい。』



 それ以来、メニューには、『うーろんろう』が、登場したのだった。



       🍵












 

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『うーろんろう』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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