ふたりの鳩
ひづきすい
本編
あるところに、ふたりの鳩がおりました。ふたりの鳩はいがみあうことこそありましたが、おおよそなかよくくらしておりました。
ふたりには、びみょうに色のちがいがありました。ほんの少し白いほうはアドルフといって、なんでも楽観視する傾向がありました。そのために、これまでにもなんどもわなにかかりかけたことがあったのです。黒いほうはカールといって、ものごとを悪いほうにばかり考える癖がありましたが、そのおかげで、わなをみぬくことには長けていました。
ある日、ふたりがでかけていると、みちの先にパンくずがおちていることに気がつきました。パンくずはみちのように並んでいて、しげみの中にまで続いていました。
「パンくずだ!食べにいこうよ、カール」アドルフは言いました。
「だめだよ。こんなのどう見たってわなじゃないか」カールは首を振りました。
カールの言うとおり、パンくずの先にはわながしかけてあったのです。わなをしかけたのは欲深い猟師で、鳩やカラスの肉を鴨の肉だと言って、金をとっていたのです。
「でもパンくずがつづいてるってことは、この先にはパンがあるってことだろう?」アドルフはパンくずをついばみながら言いました。
「じゃあかってにしたらいいさ。ぼくはついていかないぞ」カールはそういって、どこかへとびたっていきました。
カールはやがて、うつくしい泉を見つけました。それはそれはうつくしかったので、カールは大地におりて、泉の水を飲みました。しかし、その泉の水は、いきものにとってはどくだったのです。たちまちのうちに、カールはしんでしまいました。まるでねむっているかのようにしんだかれは、泉のほとりで、何十年という時間が過ぎたあと、とけて無くなりました。
翌日、アドルフは皮をはがされ、首をおとされて、猟師の屋台に並んでいました。かれの肉には銀貨二枚の値段がつきましたが、その日のうちに売れることはありませんでした。猟師はみせじまいと同時に、アドルフを棄てました。たちまち蝿がたかって、いくつものタマゴをうみつけました。アドルフは蝿のなえどことなってしにました。
ふたりの鳩 ひづきすい @hizuki_sui
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