元親友
ユニフォーム検討会を終えた財前は酒井を伴い、第三ターミナルを定期巡回していると、前方から歩いてくる男を視界に捉えた。
財前はその男に気付くとすぐさま片手を上げ、人差し指と中指をクイッと折り曲げ、酒井に合図を送る。
財前は自社のラウンジへと向かおうとしていたが、急遽方向転換したのだ。
すると、そんな財前に男が気付いた。
「財前っ」
財前率いるこの会社で『財前』と呼び捨てにする、この男。
航空大学校時代の同級生で財前の元親友でもある、副操縦士の
身長百九十センチと財前より大柄で、最年少機長として期待されている若手のホープだ。だが、元親友と……『元』が付くにはそれなりの理由がある。
遡ること三年前。
それまでは、よきライバルとしてお互いに切磋琢磨していた。
航空大学校を首席で卒業した財前に対し、闘争心剝き出しの大槻だったが、苦難を乗り越えた仲だからこそ分かち合えるものがある。
けれど、その固く結ばれた友情の絆も、一瞬にして崩れ去ってしまったのだ。
……この男ともう一人の人物によって。
***
財前には恋人がいた。
彼女の名前は
全日本スカイジェット航空の客室乗務員として勤務していて、会社の広報用のモデルとして冊子やパネルにも起用されるほどの秀でた美貌と、三か国語を流暢に操るCAとしての資質も備わっている人物。
美男美女として社内でも有名で、御曹司の財前にとって特別な存在だったのだが……。
四年ほど前に、突如眼に違和感を感じた財前は、かかりつけの病院で精密検査を受けた。
すると、眼窩腫瘍と診断されたのだ。
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