元親友

 ユニフォーム検討会を終えた財前は酒井を伴い、第三ターミナルを定期巡回していると、前方から歩いてくる男を視界に捉えた。

 財前はその男に気付くとすぐさま片手を上げ、人差し指と中指をクイッと折り曲げ、酒井に合図を送る。

 財前は自社のラウンジへと向かおうとしていたが、急遽方向転換したのだ。

 すると、そんな財前に男が気付いた。


「財前っ」


 財前率いるこの会社で『財前』と呼び捨てにする、この男。

 航空大学校時代の同級生で財前の元親友でもある、副操縦士の大槻おおつき 友則とものり三十二歳だ。


 身長百九十センチと財前より大柄で、最年少機長として期待されている若手のホープだ。だが、親友と……『元』が付くにはそれなりの理由がある。


 遡ること三年前。

 それまでは、よきライバルとしてお互いに切磋琢磨していた。

 航空大学校を首席で卒業した財前に対し、闘争心剝き出しの大槻だったが、苦難を乗り越えた仲だからこそ分かち合えるものがある。

 けれど、その固く結ばれた友情の絆も、一瞬にして崩れ去ってしまったのだ。

 ……この男ともう一人の人物によって。


 ***


 財前には恋人がいた。

 彼女の名前は夏目なつめ 一華いちか

 全日本スカイジェット航空の客室乗務員として勤務していて、会社の広報用のモデルとして冊子やパネルにも起用されるほどの秀でた美貌と、三か国語を流暢に操るCAとしての資質も備わっている人物。

 美男美女として社内でも有名で、御曹司の財前にとって特別な存在だったのだが……。


 四年ほど前に、突如眼に違和感を感じた財前は、かかりつけの病院で精密検査を受けた。

 すると、眼窩腫瘍と診断されたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る