第20話


 「そもそも私たちは全員が“集合生命体”なの。「超生物」とも言うんだけど、これは多数の生命体が集い、それ自体がまるで一つの個体であるかのように振る舞う生物的な総合体のこと。そしてこの超生物は、サイバネティクスの分野だと「限定的な知能や情報しか持たない個体が多数集まることで、個体の力を超えた大きなことを成し遂げる」と説明される。人体を構成する細胞の数は数十兆程度なのは知ってる?その体内に生息する細菌の細胞数は100兆個を超えてて、こうした体内の微生物が、免疫系など人体の仕組みに密接な相互作用をしていると考えることができる。


『人間とは、ヒトの細胞と微生物とが高度に絡み合った集合的有機体と見るのが適切だ』っていう論文を、イギリスの研究者が発表してる。


つまり体の細胞は、私たち自身のものじゃなく「バクテリア(細菌)」の集まりなんだ、って、考えることができる。例えば私たちの体の細胞の中に存在する「ミトコンドリア」という組織は微生物が共生し変化した後、私たちの体の一部となったもの。細胞、細菌、菌類、ウイルスなどの非常に複雑に集合した「超生物」。それが“私たち”なんだ」


 「へぇ…」


 「本当の意味での“独立した生命=個体”なんてどこにもなくて、私たちは私たちを取り巻く環境の中で、少しずつ“何かが”つながってる。ただ、真菌類の「個」は、その考えだけじゃ足りないくらい複雑って言うか…」



 覆い被さっていた体を起こし、彼女は“元の姿”に戻った。


 金髪の髪に、褐色の肌。


 最初に見た時の姿だ。


 姿を変えると同時に大きく息を吐き、うんと背伸びした。


 どうやら、姿を変えるのに少し体力を使うみたいだった。



 「…ふう」


 「…なんで、姿を…?」



 自分で何を言ってるのかもわからない。


 ただ、そう言うしかなかった。


 他に形容できるような言葉なんてなかったんだ。


 安易な表現かもしれないが、「姿が変わった」くらいしか…



 「…ゾーイは、私の体の中に“寄生”してる。だから傷も治るし、姿も変えられる」


 「………は?…え…????」


 「ゾーイはただの“真菌”じゃない。さっきも言ったように、自己を「増幅」できるの。人間と同じように意思を持ち、あらゆる生物に寄生できる。「個」を持たない「超個体」。そう言ったほうがいいかもね。とにかく、「ヤツら」はゾーイを使って、人間という種を超えた新たな生命体を作ろうとしてる。“多細胞変革システム(ゾーイ・ネットワーク・プロトコル)“という特殊な分子ネットワークを使って」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る