第12話



 誰かに、攫われた。



 十分予想できるはずだった言葉なのに、なぜか、しっくりこなかった。


 腑に落ちないって言った方がいいんだろうか?


 納得できないって言うんじゃない。


 彼女の発言はもっともらしいし、むしろ、説得力のある発言だった。


 ただ、…なんつーんだろ


 改めてそう聞くと、「まじか」って感じだった。


 「攫われる」なんて、本当にそんなことがあるのか?


 頭の中に何度もよぎってた。


 何度も、最悪の事態を想像してた。


 それなのに、スッとその言葉が入っていかない。


 喉に詰まったまま、まともに息が吸えない。



 

 「…まじ?」


 「まじ」



 …仮にそうだとして、なんでそんな平然としてられるんだ?


 呑気にタバコなんて吸ってる場合じゃないんじゃ…



 「だから少しの間匿って欲しいの。急な相談で申し訳ないけどさ?」


 「…攫われたって、誰にだよ?!」


 「話せば長くなる」


 「そいつらはどこにいるんだ…?」


 「…わからない。多分日本には来てるんじゃないかな」



 …?


 日本には、…来てる?


 どういう意味だ??



 …ようは、この「街」にっていう意味か?



 「…“日本”、っつーのは?」


 「…あー、わかりにくかったね。ごめん。「ソイツら」は、とくに「国」を持ってないの。分かりやすく言えば、“国際組織”ってやつ。アメリカもロシアも、イギリスも。日本からの支援だって得てる。ま、反社会的な存在だけどね?“非公式“では」



 …国際組織?


 ワードがワードだけに、どんな反応をすればいいかもわからなかった。


 反社会的な存在。


 その「意味」はわかる。


 ようはヤクザみたいな輩ってこと…だよな?


 違う?



 「んー、まあ、遠からずって感じかな。似てるようで、実際は全然違うかも」


 「…じゃあ、なんだよ」


 「国際製薬医学会(IFAPP)って、聞いたことない?LIFIX(リフィックス)っていう、大手製薬会社のこと」




 『IFAPP』は、…よく知らない。


 ただ、LIFIXは、最近聞いたことがあるかも。


 確か、海外の会社だったような…



 「…ワクチンを開発したっていうニュースが、最近流れてたような」


 「”新型ウイルス”のことでしょ?感染型の」


 「そうそう」


 「あのウイルスは、LIFIXが作ったバイオ兵器の一つなの。金儲けのために作って、実際に世界に拡散させた。社会問題化してたでしょ?今は、少し落ち着いてきたんだろうけど」



 新型感染症ウイルス。


 通称スパイク。


 リボウィリア(Riboviria)の正式名称で呼ばれ、SARS-CoV2というウイルスがヒトに感染することによって発症する気道感染症だ。


 2020年に入ってから世界中で感染が拡大し、2022年8月までに感染者数は累計6億人を超え、世界的流行(パンデミック)をもたらした。


 2023年5月5日、世界保健機関(WHO)は、ワクチン普及や治療法の確立によって新規感染者数や死者数が減少していることを踏まえ、2020年1月30日に宣言した「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を終了すると発表した。

 

 ウイルスの抗体となるワクチンを開発した会社が、確かLIFIXっていうところだった。


 LIFIX製のワクチンがどうとかって、よくニュースで流れてた。


 その「LIFIX」で合ってるよな…?


 ワクチンを開発したっていうと、おそらく製薬会社だし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る