不死川アカリは、躊躇しない。〜不老不死のアンデット系女子高生が、なぜか家に上がり込んでいる〜
平木明日香
だ、誰だ!?
第1話
…ふう
一人暮らしを始めて、はや1年。
とある理由で地元の北海道に帰ってきたのは、去年の春のことだ。
社会人生活も、少しずつ軌道に乗ってきた。
高校を卒業してすぐに上京し、旭川市でスイーツ店を営んでいる父親の跡を継ごうと飲食業界に飛び込んだのは、もう6年も前のことだ。
最初はうまくいかなかった。
仕事を甘く見てたっつーか、…まあ、色々あって。
俺が就職した場所は『ザ チーズケーキ ファクトリー』っていう店なんだが、これがまあ厳しい店っつーか。
芸能人御用達のお店で、全国でも人気の「オリジナル バスクチーズケーキ」を売ってるスイーツ店。
店舗数は現在12店舗あり、関東を中心に、少しずつその展開を広げている有名店だった。
店名からチーズケーキ専門店と思われがちだが、ピザやパスタなど200種類のフードメニューと、50種類のデザートメニューを揃えるカジュアルレストランでもある。
専門学校の紹介で面接を受けて、お店の展望とか、将来的な会社のプランとかを聞かされて、率直に「いいな」って思ったんだ。
他にも色々魅力的な店はあったが、スイーツだけじゃなく、幅広いメニューで勝負してるこのお店が、親父が経営してる店に“足りない部分”だと思った。
ウチは代々細々とやってる店だが、年々売り上げが低下してきてる悲しい実情があった。
元々地元のお客さんで切り盛りしてるような店だ。
親父の方針で、とくにこれといった宣伝を打つこともなければ、大きな改革を実施することもない。
昔から変わらない味、って言えば聞こえはいいけど、それだけじゃ、だんだん客の入りが悪くなるのも無理はなかった。
老舗には老舗なりの強みがあるって、親父は言うんだ。
店は外面なんかじゃなく、「中身」だって。
親父の言ってることはもちろんわかる。
だけどそれだけじゃ今後生き残ってはいけないと、高校の時に思い始めた。
俺には「プラン」があった。
”野望“って言った方がいいのか?
…とにかく、個人的な「夢」があってだな
…ん?
アパートの鍵を開けて中に入ると、見覚えのない靴が玄関に転がっていた。
サンダル。
それも、サイズが小さい。
…なんだ、これ…?
アオイが来たのか?
でも、普通に考えて、なんの連絡もなかったしな…
…誰のだ?
唐突な疑問が、頭の中に掠めた。
アパートに入れるのはスペアキーを渡してる家族だけで、他には誰もいない。
朝出る時にはなかった。
…うん
間違いなく。
俺の記憶が正しければ、玄関にあったのは俺の靴だけだ。
大体、ここは俺の家なんだし、俺以外の靴が存在するはずないわけで。
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