第2話 残虐ファイトは上級国民の特権

 T.U.H.東アジア支部(要は日本)にほど近い日本海(近いのは当たり前か)にて、空母から発進したT.U.H.軍のシンクロマシンとネクスト側のシンクロマシンがぶつかりあう。


 T.U.H.軍は制式量産機、『UH-M-99 ビルダー』の持つフォトンライフルで弾幕を張り、ネクスト側の機体の接近を阻もうとしている。その外見は灰色を基調としたシンプルな印象を覚える機体。

 言い方を変えると特徴がない。要はモブだ。というか、ビルダーって原作序盤でしか使われない、「所詮あやつは前座に過ぎぬ」系の機体。しかもネクスト側の機体とは違って重力下で飛べない。なので空母の上に立つか、空中での機動力を確保するためのオプション装備であるクソデカブースターをつける必要がある。まぁ、ただ飛べるだけの的になるから誰も使わないが。


 その代わりなのか、T.U.H.軍の原作後半の最新鋭機は暴れに暴れる。ネクスト根絶の荒ぶる衝動、誰にも止めらんないって感じ。

 対する真人類国家エデンの軍隊、『ネクストのための自衛機構』(Self Defense Organization for Next)略してS.D.O.N.ソドンの制式量産機は『EN-M-113 セイヴァー』。汚れが付いたら落とすのが大変そうなほどに白く、そしてデザイン性に富んだ機体だ。

 そして戦場にて両軍が激突、激しい戦いの火蓋が切って落とされるのだった————!


 なんてことにはならない。


『ぎゃぁぁぁ!』


『クソがぁぁぁぁぁぁ!!』


『ち、ちくしょぉぉ……』


『おらッ! 落ちろ猿どもが!』


 純白のヒーロー然とした機体セイヴァーが次々と灰色の特徴のない機体ビルダーを撃ち落としていく。

 狩り、と例えることすら生温い。こんなのビーターや! ……じゃなかった、一方的な虐殺だ。

 なんたって、ネクストに画面端ぃっ! で撃ち落とされてるモブと言えるような腕のパイロットはいない。全員が全員エースパイロットだ。だって、皆んな自身を天才にデザインするだろう。好き好んで弱くする輩はまずいない。

 しかし、ネクストと戦う人間の腕は普通の軍人の域を出ない。あと機体才能に差があり過ぎる。そんなわけでシューティングゲームのザコ敵がごとくT.U.H.軍の機体は次々と撃墜されていく。


『この、化け物が!!』


『どうしたどうした? もっと頑張れよ。じゃないと当たらんぞぉ?』


 仲間を撃墜されたビルダーのパイロットが、仇であるネクストの乗るセイヴァーを狙って必死にフォトンライフルを撃ち続ける。

 対するネクスト側に焦りは全くなく、じゃれてくる子どもを軽くあしらうみたいに弾幕を華麗に躱す。

 さすがは天才パイロットその1。余裕の回避だ、馬力が違いますよ。


 ネクストのなにがヤバいって、後天的かつノー努力で、弾幕渦巻く戦場でゼロ被弾舐めプができる領域に立てることだ。チートの一言に尽きる。

 というか実際、不正行為チートだ。

 そしてそれはこの戦場に参戦する機体数が如実に示している。T.U.H.軍のシンクロマシン大隊135機に対して、S.D.O.N.はだ。


 だってネクストは不死身。仮に撃墜されても死なないしな。そんなわけで緊張感とか生まれるはずもない。お遊戯みたいなものなのだろう。ちな、軍隊の最小単位はT.U.H.軍は分隊5機、S.D.O.N.は分隊すらなく小隊3機。分隊、小隊、中隊、大隊と規模が大きくなっていくことから分かるように、両者からは圧倒的な力の差というか、ネクストの余裕を感じさせる。


「うーん、圧倒的ではないか、ネクストは」


 弾幕を張っても無意味とばかりに、他のセイヴァーも華麗に躱しながらビルダーたちに近づいていき、懇切丁寧にフォトンブレード(要はビーム剣)で真っ二つにしていく。

 でもこれ、セイヴァーって自身の腰裏にマウントされてるフォトンバズーカを使えば、遠距離バキューン1発でこの戦いを終わらせに来た! できるんだよね。

 それをしない、つまりは舐めプだ。まあこれ、T.U.H.軍にとっては戦争だが、ネクストにとってはただの狩りだからね。あと軍人階級の憂さ晴らしという意味合いもある。ネクストにもカーストはあり、貴族階級と軍人階級がある。

 貴族階級が大枚叩いて自身を完全オーダーメイドした人類国家エデン発足前からの富裕層や権力者。要は上級国民だ。特徴はアニメキャラかってくらいカラフルかつ美形オンリー。

 軍人階級はその富裕層や権力者たちの私兵や部下、エデン発足時、自分たちを守るための兵士として引き抜いた、当時からの軍人や警官。デザインされているのは戦闘能力とそこそこ美形になっていることのみ、オーダーメイドではない。要は下っ端だ。特徴は目だけがカラフルで、頭髪は元の髪色に関わらず黒固定。


「まあ、僕はその天才を超える天才なんだけどねー。おっと、ようやく来たね」


 T.U.H.軍の機体ビルダーの3割が撃墜された頃、混沌とした戦場に向けて3機のシンクロマシンがヒーローのごとく飛来した。

 その名はプロトトルネードカスタム。見た目は戦闘機型、しかしそれは真の姿ではない。3機は戦闘空域に入るや否やすぐさま人型形態へと変形し、フォトンライフルを構える。


『あれは……増援か?』


『ははっ、たった3機でか?』


『やれやれ、これだから猿どもは』


 そう、彼らはT.U.H.軍の増援。たった3機でなにができる、そうネクストに馬鹿にされそうだ。というかもう言ってる。

 まぁ、できるんですがね。


 セイヴァーが敵軍の増援を迎撃せずに眺めるだけという舐めプしているうちに、プロトトルネードカスタムがごく自然になんの気負いもなく構えているフォトンライフルを、撃った。

 ただの牽制、そう認識したネクストは自らの駆るセイヴァーを操作し軽く避ける————はずだった。


『ば、バカなぁ!?』


 なんと、ビームが予兆なく歪曲したのだ。そしてまるで追尾するかのようにコックピットを貫き、爆殺☆ した。

 ちなみにフォトンライフルから放たれるビームはとても速い。技術的に劣るT.U.H.軍の物ですら光速の1%のスピードが出る。一方のS.D.O.N.は光速の50%。……こう書くと1%は大したことないように聞こえるが、普通にヤバい代物だ。光の速度は秒速30万キロもある。1%でもヤバくなるのは自明の理。


『ミゲル!? チッ、アッサリ殺られやがって、ボーナスが減るぜ全く』


『あぁ、全くだ』


 天才パイロットその1がアッサリと撃墜されてしまったわけだが、残った2機に仲間を失った悲哀はない。なんたってネクストは死なないのだ。仮に塵も残さず爆散したとしてもエデンで簡単に再生される。ナノマシンが1秒でやってくれました、って感じ。

 ゆえに彼らネクストにとってはこれは戦争ではなくただのゲームでしかない。強いて言えば貴族階級が派閥争いに使う陣取りゲーム程度の意味合い。

 なんたって、貴族階級のネクストたちがその気になればすぐにでも非ネクストの人類は根絶できるのだから。しかし彼らがそれをすることはない。なぜなら陣取りゲームが機能しなくなるから。

 この舐め腐り様こそまさに上級国民。だからこそ緊張感もでないし慢心は避けられない。だからああしてたまに撃墜される奴がいる。


 そんなわけでネクストが駆るセイヴァーは相変わらず舐めプでフォトンライフルを撃っている。ワザと躱させて追い込む、痛ぶるような射撃。普通なら翻弄されるであろう巧みな銃捌き、しかし増援のプロトトルネードカスタム3機はこれまでのモブ軍人とはワケが違う。

 彼ら3機は今度は人型形態から戦闘機型に瞬時に変形するとフォーメーションを組み、ジェットストリームアタック! ……ではなく前方にビームバリアーを展開した。3機のジェネレーターを無線で直列させることで強力なバリアーを発生させることができるのだ。

 これ、スクリーミングニムバァァァス! って感じだね。まぁ、亜光速で飛ぶビームを避けるのは普通の人間には現実的じゃない。ゆえにプロトトルネードカスタムは潔く回避は諦めてバリアーで防ぐという方針で開発された。


『フォトンライフルが効かないだとっ!?』


『噂で聞いたことがある……! ライフルが効かない3機編成の部隊、T.U.H.軍の切り札、ブラックドッグ隊……!』


 ビームをバリアーで無効化しながら飛来した3機は間合いに入ると再び戦闘機形態から瞬間的に人型に変形し、フォトンブレードを抜刀すると残る2機をすれ違いざまに八つ裂きにした。


 断末魔も残さずに爆散するセイヴァー、正しく初見殺し。さすがは慢心したネクストぶっ殺し隊、馬力が違いますよ。


 さて。今さらだがなぜ僕がここにいるのかというと、プロトトルネードカスタムを駆る彼ら外伝主人公チームの活躍を見に来たからだ。

 当たり前だが本編主人公だけを導けばいいという問題ではないのだ。外伝主人公には外伝主人公のドラマがあり、そして本編にも密接に絡んでくる。

 彼らは『SINchro maSIN 1R』という無印のリメイク作品における追加ストーリーのキャラクターだ。つまり今が無印の時系列なのだが、まぁそれはさておき。

 幸いなことに『SINchro maSIN 2』以降ならともかく、無印メインシナリオには他外伝と被る時系列のイベントはない。そこだけは安心できる。それに彼ら、元々の設定からして強いしな。多少は見守らなくても問題はない。




◇TIPS◇

 

◯ビルダー

 型式番号 UH-M-99

 全高11.6メートル

 重量50トン

 人類連合の開発した制式量産機。過去に強奪した真人類国家エデンの機体を元に開発されたUH-M-93 サンクションの後継機。拡張性と汎用性、整備性に優れる。そのため、さまざまな局地仕様に改造されて運用されている。

 なお、この機体を含めて人類連合には重力下での単独飛行能力を持つ機体や空母はない。それゆえに人類連合に制空権はなく、常に劣勢に立たされている。

 武装はフォトンライフル、フォトンブレード、シールド、胸部フォトンマシンガン。

 いずれも過去に強奪した真人類国家エデンの試作機に搭載されていた武装を元に量産された。しかしその性能の再現には失敗した妥協の産物であり、真人類国家エデンの機体との戦闘に耐えられるものではない。

 なお、プロトトルネードカスタムは非常にピーキーな設計となっており、操作性は劣悪、稼働時間は5分と持たない。火力面は一撃でセイヴァーを撃墜できるようになっているが、ビームが曲がるライフルは3発しか撃てず、刀身の長さや形をを自在に変えられるブレードは5秒で破損する。装甲は脆く、防御面は3機のエネルギーを使わなければ使用できないフォトンバリアー頼り。


・セイヴァー

 型式番号 EN-M-113

 全高12メートル

 重量18トン

 真人類国家エデンの開発した制式量産機。あらゆる性能で人類連合の開発したビルダーを上回る。その性能の高さゆえに局地仕様が不要とされ、存在していない。また重力下での飛行能力を持ち、各種機体性能がパイロットごとに自動で調整される機能がある。ほとんどのケースで真人類国家エデンから地上に降下することになるため、空中戦に主眼を置いている。

 武装はフォトンライフル、フォトンブレード、対フォトンシールド、頭部フォトンマシンガン、フォトンバズーカ。

 名前こそ人類連合の物と同様だが性能は桁違い。いずれも一撃で同格の機体を破壊する火力や、それに耐える耐久力を持つ。特にフォトンバズーカは強力で、戦争を一撃で終わらせる火力を持つ。

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