SINchro maSIN 〜罪に始まり、罪に終わる。そんな死にゲーなゲーム異世界にTS転生したので、主人公の影の支援者(ミステリアス)を演じることにした〜
第1話 僕は主人公(キミ)の影の支援者さ☆
SINchro maSIN 〜罪に始まり、罪に終わる。そんな死にゲーなゲーム異世界にTS転生したので、主人公の影の支援者(ミステリアス)を演じることにした〜
葉月ナタココ
第1話 僕は主人公(キミ)の影の支援者さ☆
「……1」
自身の操縦する機体の持つフォトンライフル(要はビーム銃)が、無慈悲かつ正確に敵機のコックピットを撃ち抜き、爆散させる。
ここは山間部にある敵の秘密拠点。地に足をつけた迷彩柄の機体が銃火器を片手に僕を歓迎しに次々と現れ出す。
「……2」
脅威度の高い順から敵機を1機ずつ撃ち落としていく。
単純な流れ作業だ。ベルトコンベアを流れてくる寿司パックに、
あのアルバイトはマジで苦痛だったぜ☆
『ば、化けm————』
一発必中、そして爆散。殺戮者どもの取るに足らない
「ふぅ……。ザコ処理は終わったし、帰る————ん?」
レーダーに敵影……いや、見知った6つのシンクロマシンの反応を見つけた僕は思わず笑みをこぼしていた。
『ヘビーバレル!』
『貴女の目的がなんなのか、今日こそ話を聞かせてもらうわ!』
勇敢なる主人公とそのお仲間の登場だ。
時は2019年、人間は死と老いを克服した。体を『
だが、施術には目を剥くほどに高いコストがかかった。それでも『
そこが分断の始まり。
容姿頭脳身体全てに優れる不老不死の権力者や富裕層、対して施術を受けられなかった中流層以下。市民たちの不満が爆発するのに時間はかからなかった。だが、権力者や富裕層はそれを『シンクロマシン』という人型戦略兵器で弾圧し、市民を力と恐怖で黙らせた。さらには自らを人類の進化系、『ネクスト』と自称し、空に彼らのための楽園、真人類国家エデンを作り上げた。
オリンピックはネクストが独占し、ノーベル賞もネクストが独占。権力も、法も、秩序も、この世の全てがネクストのモノ。
だがある時、シンクロマシンのデータが流出してしまう。その時から全てを奪い合う憎しみと血みどろの戦いが始まるのだった————。
それが
なるほどね、正にピッタリ。地獄かな?
僕はそんな世界に転生した。目覚めた場所はどことも知れない廃墟。最初こそ好きな作品の世界じゃん、わーい☆ などと浮かれていたが、すぐに正気になり思い出した。
この世界は主人公が死んだら
そんなわけで僕はこの死にゲー世界をバッドエンドにしないために行動を開始した。慣れ親しんだキャラたちがゴミのように死ぬ様なんて見たくないのだよ。
まずは自分の状況のチェック。普通の人間だったらヤバい。こちとら原作や外伝をかなりやり込んでるだけの一般人だ。その程度じゃ、この世界を生き残ることはできない。……というか、一流ゲーマーなら生き残れるだなんてナイーブな考えは捨てろ。ゲームのコントローラーとシンクロマシンの操縦桿は違うのだ。
そもそも論だが、超優秀な軍人程度じゃ、あらゆるスペックが普通の人間を遥かに上回るネクスト様には絶対に勝てないのだ。非常なり。
幸いにも僕はネクストになっていた。転生後の姿は腰に届く黒髪ロング、紅のインナーカラー、同じく紅の眼光鋭い瞳、スタイル抜群の超絶美形なうら若き少女。なんでTSしてるの? とは思ったが贅沢は言っていられない。ネクストになっているだけ御の字だ。
それはさておき、次に情報収集。廃墟内をいろいろ漁って調べて分かったことは、転生した時が物語開始の3年前だということ。そして情勢云々は僕のゲーム知識と矛盾していなかった。よかった、これで違ったら詰みだった。死にゲー世界なんだから未来知識なしには生き残れないのだよ。
最後に自分専用のシンクロマシンの用意。これがかなり手間取った。
そもそもバッドエンドを回避するといっても、それは主人公にしかできない。あの馬鹿正直なくらいの真っ直ぐさが、このクソッタレな世界の常識と空気感に頭まで使った人たちの心を動かしたのだ。
だから僕がするべきことは、彼が死なないよう影から支援すること。要は難易度調整だ。敵の数を減らし、攻略のヒントを授け、しかし1人のパイロットとして成長するように苦難と試練も与える。
それはどんな機体なら可能なのか? という話だ。
そこで天才! 僕は閃いた。無限のエネルギーを持つ機体が無限のエネルギーをあらゆる方面に有効活用すればいろいろできるし無敵だと。
やはり僕は天才か。
そして完成したのがこの機体。漆黒のボディ、全高が普通の機体の1.5倍はあるがゴツさのないスリムな外観、流線型のヘルメットのような頭部に鋭角的なツインアイ。
主人公たちが呼んでたように、ヘビーバレルがこの機体の名前。そして僕はその機体の名前で呼ばれている。……そもそも仲良く自己紹介とかしたことないからね、仕方ないね。
『くっ!?』
僕を頼りになる味方だと思っているからか油断してるっぽい主人公機(灰色)がのこのこ接近してきたところを、僕の乗機のフォトンライフルが容赦なく狙う。そんな急な銃撃にも関わらず彼は己の機体を操り、機体の肩部にビームをやや掠らせながらも直撃を回避した。
さすが主人公。油断していても、ネクスト相手に何度も戦闘を熟して生き残ってるだけあってなかなかの身のこなしだ。今の、機体の腕を根本から吹っ飛ばすつもりで撃ったんだけどね。
いい感じに実ってますね〜♡
『せめて話くらいは聞きなさいよっ!』
赤い機体に乗るヒロインの1人が僕に怒声を浴びせつつ、フォトンランチャー(要はデカいビーム砲)を牽制のためにぶっ放す。散弾のように雨霰と降り注ぐビームが山の斜面を削る中、当然僕はひらりひらりとスケートでもするかのように華麗に躱した。もし仮に彼女が殺すつもりで撃ってきてたとしてもまず当たらない。
だって僕、最強だから。
「油断はよくないよー。戦場じゃ流れ弾で死ぬなんてあるあるだし。だからちょっと、ね」
『なにがちょっとよ!』
『まあまあ、クリムゾンちゃん。まずは落ち着こうよ。ところでヘビーバレル、今日はどうしてここに?』
僕の軽口に激昂するクリムゾン(先程牽制射撃をぶっぱした人)を宥めつつ、ホワイトのふわふわした雰囲気の声が僕に問う。彼女はその名と同様の白い機体に乗っている。名前と機体の色の共通点は他ヒロインもほぼ同じ。違う人もいるけどね。
「うーん、ちょっとしたお出かけかな」
『お出かけ、ねぇ……』
このあと君たちが戦う予定の敵の数を減らして難易度調整してました☆
……なんて、知られるわけにはいかないので話せない。それに理由を説明なんて絶対できない。
傍目から見ても見なくても怪しい、そんな僕に対するホワイトの声からは、彼女の疑念の感情がひしひしと伝わってくる。
『
そんな時だ。主人公機の通信を傍受したのは。簡潔ながら拒むことを許さない上から目線。実際上だ、通信相手は主人公チームの上司なのだから。
ちなみに主人公機に通信を入れた者の言う
そして
そして主人公たち
ちなみにT.U.H.は人類連合(The United Humanity)の略だ。ネクストに人間性(Humanity)がないみたいな言い方、嫌いじゃないわ☆
……ん? 国連はどうした、って? そりゃ権力者連中が皆んなこぞってネクストになったんだから、空中分解どころか自然消滅したに決まってるじゃんアゼルバイジャン。なんなら、どこの国のどの団体も、国家や国際組織や宗教すらも似た感じだ。どこもかしこも空中分解、当時は随分パニックになったらしい。
『……了解』
主人公のなにかを堪えるような重めの返答とともに通信が終了する。
『ヘビーバレル』
「ん? なに?」
てっきりそのまま現地に赴くかと思えば、主人公はいきなり僕へと通信を入れてくる。
ヘビーバレルは超々々高性能機。他からの通信はおろか傍受も不可能だが、主人公とその仲間は特別に通信は許可している。
傍受はさせないけどね。
『……今度、2人で話をしよう。その時、君のことを教えてほしい』
『隊長!?』
『……』
驚くクリムゾンと無言が怖いホワイト。
そして彼はやはり主人公だ。どう考えても怪しい僕と2人で話し合おうなんて、誰にでもできることじゃない。
だが僕は君の影の支援者。けして表舞台には立たないのだ。
「んー。なら、シンクロマシンに乗ってない僕を見つけられたら、ね」
まあ、無理だね。だって彼は僕の容姿を知らないのだから。ガハハ、勝ったな。
『分かった! また会おう!』
うーん、いい子。
主人公の光成分も補給できたし、明日からも頑張れそうだ。
◇TIPS◇
・ヘビーバレル
型式番号 ss-O-09
全高18メートル(推定)
所属不明にして正体不明の大型シンクロマシン。およそ3年程前からその活動が報告され始めた。その行動に規則性はなく、暴走した無人機説が有力。地上、上空のみならず水中でもその活動が確認されている。
ずば抜けた戦闘能力を持ち、ネクストの駆る機体数十機がかりでも太刀打ちできず、戦闘時に被弾が確認されたケースは一度も確認されていない。確認されている武装はフォトンライフルのみ。あらゆる戦闘でそれ1つのみしか使用していない。
なお、名称と型式番号は機体の左肩部に記載されているもの。しかし、このような型式番号は人類連合も真人類国家エデンにも存在していない。
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