けんじゃの書

木目ソウ

第1話

(……流れ星)


 ベランダで涼んでいたら、ミルク色の流れ星が上空をかけおりていく。


 線香花火が燃えつきるように、すぐにみえなくなった。


(でもまぁ願い事なんて特にないしね。強いていうなら、お金持ちになれますように? んー、中学生なのにそれは夢がないかな? ウサギが飼えますようにとかにしておけばよかったかも)


 色のない作り物めいた生ぬるい風が、囁きかけるように私の肌をなで、闇に消え、やがて夜は更けていく。




「昨夜流れ星みた?」


「みてないー。そういえば昨日の夜といえば商店街の方にパトカーきてたね。あのマンモスマンションの前」


「そうなの?」


「なにか事件があったのかな?」


「下着ドロボー?」


 クスクスクス……


 女の子たちの影が笑っている。

「きいた? 園山」「きいた。どーせ自分のこと鳥と勘違いしたんだよ」「脳ミソ、鶏くらいしかつまってなさげだもんな。ありえる……」


(園山? また、みさおが何かしたの)


 その時、すごく慌てた様子で、先生が教室に入ってきた。


「はい、皆しずかに。えー突然のことでおどろくかもしれないが、おちついて聞いてくれ。……もしかしたらもう聞いている人もいるかもしれないが、私たちのクラスの園山 みさおさんが、昨夜亡くなった。今から一分間の黙祷を行う」


(エ……みさお死んだの?)


 園山 みさお。

 彼女は私たちの教室に「こっそり隠居」していた……つまり不登校の……賢者だった。

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